カテゴリー: 経営環境

インボイス制度、その先に~中小・零細業者を切り捨てる制度改正が待っている?~

2023年10月1日より開始予定のインボイス制度は500万社ある消費税の免税事業者に大きな税負担と事務負担を強います。財務省は、免税事業者のうち161万社が課税事業者を選択することを想定し、その税収増は2,480億円、1社あたり約15.4万円になります。この負担は経済格差が拡大している現在、決して少ない額ではありません。

さらに懸念されるのが、課税事業者を選択することを余儀なくされた事業者がどのように消費税実務をこなすかです。これまで、消費税の計算とは縁もゆかりのなかった者がにわかにその税額を算定するための申告書を自らが作成できるとは思えません。

インボイス制度が導入されれば、その先に待っているのは、現行の消費税の根幹をなす制度に大きな手が加えられる懸念です。以下、考えられることを検証してみます。

(1)簡易課税制度は縮減され、やがて廃止される

消費税の課税事業者のうち現在約4割が簡易課税制度を選択しています。また、新たに課税事業者の選択をすると思われる大半がこの制度を選択すると考えられます。

インボイス制度の導入は、「正確な」適用税率や消費税率等を明示するという趣旨です。そういう点では現行の簡易課税制度では「正確な」納税額を算定できません。

今後は、みなし仕入れ率を低くするなどの改定をして、簡易課税制度を選択すれば税負担が原則課税より重くなる状況をつくり、簡易課税選択者を原則課税の方に誘導し、やがて廃止し、「正確な」税額を国庫に納めさせようとする企図があるのではないかと危惧します。

(2)事業者免税点が引き下げられる

消費税の事業者免税点制度は、小規模事業者の納税事務負担等に配慮して納税義務を免除する制度です。現行の制度では、基準期間における課税売上高が1,000万円以下です。

インボイス制度が導入され定着したら、次に考えられるのがこの引き下げです。しかし、この制度を廃止すれば、課税当局は事務負担が増加する割には、税収は増えないということなります。要は、課税の適正化と事務処理の煩雑さを考慮してその水準が決められます。

そこで考えられるのが国際水準です。OECD加盟国の免税点の水準が、500万円以下である状況を踏まえ、現行の半分の500万円に引き下げられる可能性があります。

(3)基準期間は廃止される

基準期間という仕組みが存在するのは、日本の消費税が帳簿方式を採用しているための仕組みです。インボイス制度が導入されれば、帳簿ではなく、インボイスで事業者免税点などの判定ができるのでこの仕組みが不要になります。

換言すれば、インボイス制度により起業をすればすぐに誰もが消費税の世界へと誘われる仕組みに様変わりすることになります。

消費税の近未来を考えると空恐ろしいことになることが想定されます。さらに、待ち受けているのがさらなる消費税率の引き上げです。そうなればこの国のかたちはすっかり様変わりするでしょう。インボイス制度、止めるなら「今」です。

国際連帯税でグローバルな課題の解決を~ワクチン接種、気候温暖化、貧困問題などに有効です~

新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」は、アフリカ南部から世界各地に広がったとみられています。アフリカをはじめとする途上国では、設備や資金面の問題からワクチン接種の進展が先進諸国に比べて遅く、こうした「ワクチン格差」が感染拡大の要因となったとの見方も出ています。命の格差が広がっていることが顕在化しています。

経済が国際的に減速している一方、株価は高騰しています。数多くの人々が経済的に困窮している中で、超富裕層や多国籍企業はますますその富を増やし続けているという現象があります。しかも、その稼得した富に対してまっとうな税金を払っていません。パラダイス文書など国際的な報道機関が明らかにしたようにタックスヘイブン(租税回避地)に資金を移転するなどの方法を巧みに利用しています。

このような国際的な富の偏在を是正するには、グローバル・タックス(国際連帯税)の導入が必要です。金融取引税、デジタル課税、地球炭素税、富裕税、武器取引税などが提唱されています。デジタル課税については、12月2日の記事で触れていますが、今年大きな前進がみられました。今回は、金融取引税について考えてみます。

金融取引税とは、金融市場で取引のある金融商品の売買に対して低率の税を課するものを言います。その課税対象は、株式、債券、金融派生商品(デリバティブ)為替です。この課税の効果としては、財源調達と投機的な金融取引の抑制があります。かなり大きな財源が新たに生まれるとともに、1秒間に何百回もの売買をするような投機的取引を抑制し、マネーゲームに制限をかけることが可能になります。

この課税方式はすでにEU諸国で議論され、フランスでは時価総額10億ユーロ(130億円)以上の国内株式の購入に0.2%を課税する金融取引税を2012年に導入し、その後、税率を0.3%に引き上げています。イタリアも導入し、さらにスペインやポルトガルでもその検討をしています。

EUでは、金融取引税のことを「ロビン・フッド・タックス」と命名しています。その理由は「強きをくじき、弱きを助ける」税金だからです。日本の消費税のように「逆進性」はありません。

日本では超党派の「国際連帯税の創設を求める議員連盟」が、議員立法で金融取引税などを候補とする国際連帯税の実現をめざすことを確認しています。また、市民団体や専門家も外務省などに長年働きかけをしています。

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は記者会見で、ワクチンの公正分配は「慈善事業でなく、全ての国にとっての最善の利益」と強調し、「ワクチン不平等が長く続けばそれだけウイルスを拡大させ、予防や予想ができない形で進化させる」とし、格差是正が急務だと訴えています。

こうした格差是正を抜本的に行うためには、利ざやを稼ぐことを自己目的化している金融取引に対して、低率で課す金融取引税は大きな効果を上げるのではないでしょうか。

国際課税の新ルールに注目が向けられています~9年越しの議論、100年ぶりの改正で大きく変わる世界の税制~

1980年代にイギリスのサッチャー政権とアメリカのレーガン政権が法人税減税に舵を切って以来、世界的な法人税率の引き下げ競争がされてきました。この際限のない引き下げ競争は結果として法人税収を引き下げ、自らの首を絞める「チキンレース」を興じてきました。「チキンレース」とは「相手を屈服させようとして互いに強引な手段をとりあう争い」と言う意味です。これは和製英語で、英語では「チキンゲーム」と言います。日米欧などが失った可能性がある税金は過去10年だけでも170兆円との試算がなされています。

経済協力開発機構(OECD)は、10月8日、多国籍企業の税逃れを防ぐための新たな国際課税ルールに関する交渉会議を開き、136カ国・地域が最終合意に達しました。合意に達しなかったケニア、パキスタン、スリランカ、ナイジェリアの4カ国については引き続き協議を進めます。

2012年に本格的な国際課税の強化の協議が始められて約9年越しでまとまりました。これは約100年ぶりのルール改正です。鈴木財務大臣は、新たな国際課税のルールで最終合意に達したことについて「100年来、続いてきた国際課税原則の見直しが、グローバルな枠組みのもとで合意されたことを高く評価する。今後、多国間条約の策定・批准や、国内法の改正に向け、引き続き各国と協調しながら取り組みたい」という談話を発表しました。

この「国際課税の大改革」は2つの柱からなっています。ひとつは「デジタル課税」、もうひとつが「法人税の最低税率」です。

デジタル課税とは、これまで国際課税の大原則として、人や施設など物理的な拠点のある国のみが課税できるとされていたものの大転換です。近年急速に成長してきたGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などに代表されるIT企業などは、インターネットを通じて世界中にサービスを提供して利益を上げる一方で、物理的拠点は法人税率の低い国のみに設置して税負担を低く抑える抜け穴がありました。新ルールでは、売上高が200億ユーロ(約2.6兆円)を超え、利益率が10%を超える企業が対象で、売上高の10%を超える利益の25%について、売上高に応じて各国・地域に配分するというものです。

もうひとつの柱が、法人最低税率の導入です。これは、一定規模以上のすべての多国籍企業に対し、最低15%の実質税負担率を課す仕組みです。単に法人税の最低税率を15%にするというものではなく、法定税率を15%以上としている国でも、税制の抜け穴や優遇措置を利用して実質税負担率を15%未満に下げている仕組みを許さない仕組みです。今回の新ルールでは、最低税率を下回る国に拠点がある企業は、親会社のある国に最低税率との差額を納めなければならなくなります。

「この合意は21世紀の税制革命だ」とフランスのルメール経済・財務相が語っています。また、アメリカのイエレン財務長官は「有害な『底辺の競争』に終止符を打つ国際ルールをすべての主要国が支持した」と歓迎声明を出しています。

完全だとは思いませんが、これを前に進めることが求められているのだろうと思います。

農業破壊を食い止めなければ~米価暴落で農家は塗炭の苦しみに~

「昔は北海道のお米は厄介道米(やっかいどうまい)という程、売れない米だった。今はその北海道がやたら美味い米をつくるようになった。農家のおかげですか?農協の力ですか?違います。温度が上がったからです」こんなとんでもない発言を、一国の副首相が総選挙の遊説で脳天気にしました。しかし、米農家は今まさに非常事態なのです。

コロナ禍によって外食を中心に米需要が大きく減少して、今年収穫された米の生産者価格が昨年対比で軒並み2割から3割も下がっています。産地や銘柄によって金額のばらつきはありますが、人気の北海道の「ななつぼし」が一俵(60㌔)で11,000円、昨年比-2,200円、千葉県の「ふさおとめ」にいたっては、6,400円、昨年比₋5,200円です。

米の生産コストは、農水省の調査では一俵あたり15,155円です。農家が現金支出する機械代・肥料代・農薬代など(物財費)は、9,180円です。この物財費と生産者価格がほぼ同額になっています。つまり、生産コストの中に含まれる労働費が確保できない、換言すると農家は賃金ゼロ、あるいはマイナス(持ち出し)の状態になっています。

史上最大の減反を達成したにもかかわらず、米価の大暴落に苦しむ農民がいます。そして、来年も同様の減反が強制されようとされています。政府は、生産量の5%に当たる36万トンの転作・減反を求めています。他方、その2倍にあたる77万トンの外国産米を「ミニマムアクセス(最低輸入機会)米」として輸入をしています。

米価を市場原理だけで考えて良いのでしょうか。それでは、日本の農業や食の未来は見えてきません。わが国の一人当たりの米の消費量は過去50年で半減しています。その減少分が小麦や大豆などの輸入産品に置き換えられました。その結果、カロリーベースの食糧自給率は37.17%という低水準になってしまいました。飢饉など、世界中が食糧危機になった場合にどのように対処するのでしょうか。

この水準は、G7の中でも異常なまでの低さです。カロリーベースの食糧自給率は高い順からカナダ264%、アメリカ130%、フランス127%、ドイツ95%、イギリス63%、イタリア60%です。日本の農業は、「過保護」との指摘がありますが、それは間違っています。日本の農業所得に占める補助金の割合は30%ですが、ドイツでは77%、フランスで64%、イギリスで53%など国家としてその自給率向上に努めています。

また、アメリカでは昨年余剰になった農産物を買い上げ、生活困窮者の食糧支援に提供しました。今年も、低所得世帯やシングル家庭、貧困高齢者への食料配布補助などの支援政策を強化しています。農業予算の60%を消費者の食料購入支援に充てています。

わが国では、コロナ禍で職を失ったなどの理由で米が食べたくても食べられない人が急速に広範囲に拡がっています。アメリカなどのように過剰米を政府が買い取り、生活困窮者などに食料支援をすることが求められています。

このままでは、来年も米価の大暴落が想定され、農業をやめてしまう人がさらに増えるでしょう。日本の農政を抜本的に変えなければならないときにきています。

岸田首相、それを日和見と言うのではないでしょうか?!~金融所得課税について考える~

首相は、総裁選後の記者会見で「岸田文雄の特技は『人の話をよく聞く』ということだ」と自身のメモ帳を併せて国民に向けて発信しました。その「聞く力」が本物かどうか試されます。しかし、自身の公約でもあった金融所得課税については多くの国民の声でなく、少数の富裕層とそれを擁護する為政者の声を敏感に聞いたのではないでしょうか。

日経新聞(11月8日号)の「マネーのまなび」欄に金融所得課税が特集されていました。タイトルは「税率一定、高所得者は負担軽く」というもので、Q&A方式での解説でした。その解説の一つが『(Q)お金持ちは投資の税で得をしていると聞きました。(A)一般に所得の高い人が株式など金融商品を多く持ち、年収に占める投資の利益の割合が大きくなりがちです。所得税は累進課税で高所得者の負担が大きくなります。しかし、投資による利益を他の所得と分けて計算する税率は一律です。国税庁の資料によると、投資利益と他の収入の合計額に対して実際に払った所得税の割合を所得別にみると、ピークは1億円です。それを超えると割合が下がるため「1億円の壁」と呼ばれています。』としていました。

財務省によると、2019年時点で所得が5千万~1億円の層の所得税負担率は27.9%ですが、20億円~50億円の層だと18.9%に下がっています。この現象は、明らかに多くの金融資産を保有する富裕層に対して恩恵だといえるでしょう。

日経新聞は、『岸田首相は就任当初の記者会見で金融所得課税について検討の意向を示していましたが、わずか1週間で「当面は触ることはない」と前言を覆した。今回の首相の方針変更は、金融所得課税を警戒する株式市場の声に対して「聞く力」を発揮したともいえる。しかし、「こんなに早く主張を取り下げるのは今後の政権運営にとって不安のタネになりそうだ。」と報道していました。

岸田総理と同い年の私は、「聞く力」だけでなく、「涙する目」と「傾ける耳」と「差し伸べる手」が必要だと思います。

富裕層の金融所得が分離課税(国税15%、地方税5%)でなく、総合課税であれば他の所得と合わせて税率55%(国税45%、地方税10%)になるところが、一般勤労者の所得400万円の階層と同じ税率の20%というのはあまりにも不公平です。

配当所得だけでも税率20%の分離課税を廃止し、総合課税にすれば約1兆の税収が生まれると財務省は試算しています。また、自民党の高市早苗政調会長は「50万円以上の金融所得の税率を30%に引き上げれば約3,000億円の増収になる」とかつて発言していました。

米国の著名な投資家のウォーレン・バフェット氏は「過去20年間、階級闘争が続いたが、勝利したのはわれわれの階級だ。われわれの階級が税率を劇的に引き上げたのだ」(2011年9月30日付、ワシントン・ポスト紙)としていましたが、その流れとは逆にバイデン米大統領は4月の議会演説で「1%の富裕層に課税する。ここから税金を取らなくてどうするんだ。」と発言しました。岸田総理、「日和見」せずに、金融所得課税を実行してください。

インボイス制度を廃止と消費税減税は不離一体~圧倒的大多数の税理士も反対を表明~

インボイス制度(適格請求書等保存方式)の実施(2023年10月1日開始)に先だってこの10月1日よりインボイス(適格請求書等)を発行できる事業者の登録申請が始まりました。

同時に、10月31日投開票となる総選挙も最終盤となり、消費税の減税の是非をめぐって与野党が論戦を戦わせています。与党である自民党・公明党以外の政党は、減税の期間をめぐって若干の温度差はあるにせよ消費税減税に前向きです。

与野党が逆転すれば、消費税減税が現実のものになります。そうなると、インボイス制度にも大きな節目になります。というのはインボイス制度導入の理由のひとつが複数税率に対応することにあるからです。消費税を5%に減税すれば、現在の8%と10%の複数税率は解消されます。したがって、インボイス制度導入の根拠が崩れます。

税理士業界も大きく影響されるこの制度について否定的です。日本税理士会連合会・日本税理士政治連盟は、令和4年度の税制改革に関する重要建議事項のトップに、インボイス制度の見直しとその導入時期を延期することをあげています。その理由は、事務負担と市場に与える影響を考慮してのことです。

業界紙である「税理士新聞」の9月15日号では、インボイス導入に反対する意見がなんと88%にも上っていました。そのコメント欄のなかで的を射ているものがありましたので紹介します。『インボイス制度の実施には絶対反対である。消費税はもともと憲法が保障する負担公平の原則(憲法14条)に反する最も民主主義に反する税制である。インボイス制度の施行は、免税事業者を経済取引を通じて通常の活動から締め出す効果を持っている。したがって中小零細業者は免税を放棄するか廃業するかの選択に迫られることになる。解決策は一つ、消費税そのものを廃止すること以外にない。そうしなければ税理士業務も、もはや継続できなくなるだろう。納税者は主権者である。税理士も主権者の一人である。納税者と手を携えて、最悪の大衆課税である消費税をなくすために立ち上がろうではないか。』との記載、私もまったく同感です。

財務省は、年間課税売上高1,000万円以下のフリーランスや零細個人事業者、法人の免税事業者のうち160万者・社が課税事業者を選択するとみており、その増収額は約2,500億円であるという試算を公開しています。しかし、それらの人たちが意図的に消費税の負担を免れている問題児なのでしょうか。

答えはもちろん否です。課税事業者の選択を迫られる事業者は、個人タクシーや赤帽などの運送事業者、出版・生保・損保の代理店、建設業の一人親方、外注化された社員、シルバー人材センターで働く人、数多くの農家など多岐にわたります。それらの人たちが、インボイス制度の問題点だけでなくその制度さえ知らされないまま、否が応でも課税事業者の選択か廃業かを迫られることになるのは明らかです。

今回の総選挙で消費税の減税を実現し、インボイス制度の廃止させるための投票行動を起こしていきましょう。

暴力団に対する課税について考える~税務調査を強化すべきでは?~

8月24日、福岡県北九州市に本部を置く特定危険指定暴力団「工藤会」のトップ総裁の野村悟被告(74)に死刑判決が言い渡されました。福岡県で起きた4つの暴力団関係者でない一般市民襲撃事件で殺人などの罪に問われていました。

既にさまざまな取締りの強化で、暴力団やその構成員は銀行口座が作れない、金融機関からの融資が受けられない、スマホを契約できない、車を購入できない、賃貸住宅に入居できないなど生活面での締付けが厳しくなっています。しかし、その締付けの網の目を潜っている実態があるのも事実です。警察などがなすべき対策や課題もまだまだ多いのが現状です。

野村被告は判決を不服として控訴しました。直接的な証拠はなくとも組内での絶対的地位を根拠にトップの責任を問い、極刑に処した今回の判決を賞賛する声がある一方、推論と推認を重ねる手法についての危険性を指摘する声もあります。

この死刑判決に先んじて今年2月16日に、最高裁第3小法廷(宮崎裕子裁判長)は、工藤会の上納金を巡り、約3億2千万円を脱税したとして所得税法違反罪に問われた会トップの総裁、野村被告の上告を棄却する決定をしました。懲役3年の実刑、罰金8千万円とした一、二審判決が確定しました。2010年から2014年の5年間、不動産所得については申告していたものの、被告が上納金のうち個人的に収納していた部分の約8億を申告していませんでした。

一審の福岡地裁は、口座の記録や組関係者の証言に基づき、工藤会が「みかじめ料」として建設業者などから集めた上納金が、一定の比率で野村被告に分配され個人的な支出(被告の交際相手のマンション購入費用や親族の生活費・養育費等)に充てられていました。さらに、被告の個人資産の増加状況とも符合していました。それらを総合判断しての判決でした。二審の福岡高裁もこれを支持していました。

これらの所得について判決は、一時所得や事業所得に該当するものではなく、雑所得に該当し、さらにその所得に対する必要経費はないと判決しました。この判決について支持する声がある一方で課税の妥当性について異論もあるようです。

日本弁護士連合会は、「暴力団の上納金に対する課税の適正な実施を求める意見書」を取りまとめ、2017年2月17日付けで内閣総理大臣、法務大臣、財務大臣、国税庁長官及び警察庁長官宛てに提出しました。意見書の趣旨は、「課税に関する関係機関に対し、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律に規定する暴力団の代表者(組長、総長、会長、理事長等と称する暴力団の首領)に支払われる上納金の課税のために、法律に基づき、質問検査権等を行使し、その実態を把握した上で、その結果に基づき、適正な課税措置を講じることを求める。」という内容です。

つまり、暴力団についての税務調査を厳格にすることを示唆しています。しかし、税務署はこの分野には手が及んでいないのが実態です。この事件を受け、警察と税務署がチームを組んで税務調査を積極的に行い、その結果を公表することが求められていると思います。

最近耳にするSDGs~誰一人取り残さない社会の実現をめざして~

最近よく耳にする言葉にSDGsがあります。

SDGsとは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の頭文字をとった言葉です。小泉前環境大臣などがスーツにカラフルな丸いバッチをつけていますが、あれがSDGsバッジです。

異常気象が世界各地に頻発するなど、私たちの地球が人類生存の危機に陥っているときに、先進国、途上国を問わず、全世界が直面する問題の解決を共有しました。2015年の国連総会において全会一致で採択されました。2030年まで17の目標を掲げています。その目標は、次の5つのPのカテゴリーに分類されています。

人間(People)①貧困をなくそう、②飢餓をゼロに、③すべての人に健康と福祉を、④質の高い教育をみんなに、⑤ジェンダー平等を実現しよう、⑥安全な水とトイレを世界中に

繁栄(Prosperity)⑦エネルギーをみんなにそしてクリーンに、⑧働きがいも経済成長も、⑨産業と技術革新の基盤をつくろう、⑩人や国の不平等をなくそう、⑪住み続けられるまちづくりを、⑫つくる責任、つかう責任

地球(Planet)⑬気候変動に具体的な対策を、⑭海の豊かさを守ろう、⑮陸の豊かさを守ろう

平和(Peace)⑯平和と公正をすべての人に

パートナーシップ(Partnership)⑰パートナーシップで目標を達成しよう

SDGsは、個々別々であった「経済、社会、環境」の3つの側面の取り組みを統合する目標になっています。これまで私たちのさまざまな分野の運動や取り組みが集約されたものといえます。そして「誰一人取り残さない」社会の実現をスローガンに、「世界を持続可能かつ強くしなやかな道筋に移行させる」ことをめざしています。

全会一致を可能にするために不十分な側面もあります。例えば⑦では、クリーンエネルギーの提示があっても原子力発電問題については触れられていません。また⑯では、核兵器廃絶の課題については触れられていません。

この採択を受けて日本でも2016年5月に、SDGs推進本部が総理大臣のもとに、全閣僚を構成員として設置され、同年の16年12月より実施指針が決定されました。政府の重点施策として3本の柱と8つの優先課題が掲げられましたが、決して十分な取り組みとはいえないのが現状です。

しかし、民間レベルではさまざまな取り組みがされています。例えば、2020年4月からコンビニ店などでのレジ袋の有償化が決まりました。使い捨てプラスチックの削減をめざしたものですが、実際に効果を発揮しています。

日本人の国民性からして、自分自身が納得したことについてはきちっと実行します。コロナ禍でのマスクの着用などがその例です。政府がきっちりと方向性を示せば、SDGsはこの国に定着すると思います。

宇宙船地球号の乗組員として、この課題に立ち向かわなければなりません。

心ある政治家に提言する4つの税制改革~格差是正と庶民にやさしい税制をめざして~

日本の税制の大きな転換点になった消費税導入(1989年)から32年間の特徴は次の3点に要約されます。

①法人税・所得税・相続税の最高税率は大幅に引き下げられました。その結果それぞれの税収は大きく落ち込みました。同時にその不足分を補うように新規国債の発行は増えました。

②消費税は度重なる税率の引き上げが行われ、各種の零細事業者を配慮する制度の見直しがはかられました。消費税は補完税から基幹税へと姿を変え、いつのまにか税収のトップの地位を占めるようになりました。

③その結果、大企業と富裕層はその果実を受けましたが、その一方で多くの庶民と中小零細企業は増税にあえいでいます。つまり、個人・法人ともに、所得格差はこれまでにないほど拡大しています。

ところで、租税のあり方に「応能負担の原則」があります。「応能負担」とは、負担能力のない者には税を少ない負担率にし、所得の高い者にはより高い負担率で税を課すことによって、所得を再配分する機能を与えるという考え方です。

具体的には(1)間接税ではなく直接税(所得課税)を中心にする。(2)各種の所得を総合化して、所得が多くなるに応じて高い税率(超過累進税率)を課す。(3)生活費は非課税とする。(4)勤労所得(給与所得や事業所得など)には軽い税金を、不労所得(株式の配当や譲渡など)には重い税金を課す、などを言います。

改革の4つの提案は、消費課税、法人課税、所得課税、資産課税のそれぞれの分野です。

まず、消費課税は、逆進性(所得の低い人ほどその負担率が高い)の強い消費税を当面5%に減税し、将来は廃止することです。その代替財源の一部として、新しい形の物品税(大企業のメーカー、例えば自動車産業などに出荷の時点で一定税率を課す)を創設してはどうでしょうか。さらに、免税事業者だけでなく課税事業者も大混乱に陥るインボイス制度への移行をやめることが喫緊の課題です。

次に、法人課税は、企業規模が大きくなればなるほど税率が低くなる仕組み(租税措置法などが原因です)を改めなければなりません。また、課税の仕組みを比例税率から所得税のように超過累進税率に変えることが必要です。

そして、個人課税では、消費税導入後に下げられた超過累進課税を強化することです。健康保険料に対する負担率を上限なしにすることも課題です。さらに、金融資産(株式の譲渡や配当など)を総合課税にすることです。不動産の譲渡も総合課税にすることも検討が必要です。

最後に、資産課税は、相続税の累進課税を強化することが大事です。併せて、超富裕層(具体的には、金融資産を5億円以上所有している個人)から低率でも良いので課税する仕組みを創設という発想はどうでしょうか。

総選挙の日程が10月31日で決まりました。それぞれの政治家(所属政党は問いません)が信念を持ってその世界に入られたのだろうと思います。日本は異常なまでの格差社会になっています。

政治家の皆さんには初心を忘れず、国民目線でこの格差社会を解決するための税制のあり方に目を向けてもらえればと願います。市井の税理士からのメッセージです。

アマゾンの功罪を考える~その創業者に応分の負担を求めるべきです!~

7月20日、アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾス氏が、自らが設立した宇宙開発企業のロケットで約10分間の宇宙旅行をしました。多くのマスコミが取り上げ、「新しい時代の幕開け」のごとく報道をしました。

奇しくもこの日は今から52年前の1969年に人類が初めて月面着陸をした日でした。地球ではこの快挙のTV中継を6億人が見ました。アポロ11号のアームストロング船長は「これは人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」と述べました。

一方、ベゾス氏は「アマゾンの全従業員、すべての顧客に感謝したい。あなた方が今回の費用のすべてを払ってくれたのだから」と、大はしゃぎでした。

私も、アマゾンの顧客のひとりです。確かに、アマゾンが私たちの生活様式を格段に変えたことは論を待たないでしょう。大きな本屋さんが近くにないので注文して取り寄せになる専門書も翌日に手元に届きます。中古の書籍も豊富に在庫があります。近くのスーパーでは売っていない私が愛飲しているフランス産炭酸水の「ペリエ」も手に入ります。かさの張る品物も自宅まで宅配業者が注文した翌日に届けてくれます。

そんなアマゾンは超巨大化しています。売上高は、2016年に1,360億ドルであったものが4年後の2020年には2.8倍増の3,861億ドルに、営業利益は同期間で42億ドルが229億ドルと5.5倍に、売上高対営業利益率も3.1%から5.9%と1.9倍改善されています。

従業員の数も34.1万人から129.8万人と3.8倍になっています。アマゾンはGAFA(ガーファ=グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれるアメリカの主要IT企業の一角を形成していますが、従業員の数は他の3社の合計より多くなっています。ちなみにグーグルは13.5万人、アップル12.3万人、フェイスブック5.9万人です。

会社だけではありません。個人資産も膨れあがっています。アメリカの大富豪を調べている政策研究所によると、ベゾス氏の資産は7月時点で2,124億ドル(日本円で約23兆円)です。コロナ危機が深刻化した2020年3月から1.9倍も増やしました。10億ドル以上の資産を持つアメリカの大富豪713人の資産は同じ期間で1.6倍に増え、総額4.7兆円とドイツのGDP(国内総生産)を上回っています。

国際NGOのオックスファムは、「億万長者は不公平な税制と脆弱な労働者保護で資産を増やしている」と指摘しています。そして、「連邦所得税をほとんど払わないくせに自らの宇宙旅行には75億ドルも費やせる」とベゾス氏を批判し、富裕層への課税強化で学校や病院を造るべきだとしています。

また民主党の議員などからも「彼が10分間の宇宙旅行を楽しんでいる一方でアマゾンの倉庫労働者は10時間立ちっぱなしで働く」「看護師よりも低い税金しか払わず、宇宙旅行を競い合っている」「経済的正義のある社会なら、ホームレスや飢餓をなくすために彼に1,000億ドルの地球帰還税を課すだろう。それでも彼はまだ世界で8番目の富豪だ」などの鋭い指摘がされています。

課税の適正化は、アメリカだけでなく日本の歪んだ二極化社会でも焦眉の課題です。