あれもダメ!これもダメ!と言う税理士

長く懇意にさせてもらっている方からの紹介でとある個人の建設関連業者の税務調査に関わることになりました。

事業主やその奥様にお話しを聞いて驚いたのは、税務調査で顧問税理士が、税務署員に対して何も発言や意見を言わないことでした。

毎年の所得税の確定申告では、あの支出もダメ、この支出もダメと節税相談には、まったくのってくれなくてまるで意図して税務署に高い税金を払っているようだったと感じたそうです。

にもかかわらず、税務調査では税務署員の突っ込んでくるところには、まったくの「だんまり」です。その事業主や奥様も顧問税理士に対して呆れることばかりだったようです。

当時依頼していた税理士が担当する以前はその担当税理士のお父さんである税務署出身のOB税理士に関与してもらっていました。その当時は、アドバイスもある程度はしてくれたし、税務調査のときも口下手な事業主に代わって代弁もしてくれていたそうです。

しかし、代替わり(二代目である息子さん)してから、奥様が一番気に入らなかったことは、青色事業専従者給料の値上げをお願いしても理由も言わずにただ「ダメ」と言う返事しかくれなかったことでした。特前所得(青色専従専従者給料を引く前の所得金額)が、はるかに1,000万円を超えているのに、実態との乖離に二代目税理士に不信感を持ちました。奥様は「現場にも事業主であるご主人と一緒に出て働き、その上に経理事務までやっているのに」との思いが強くあったようです。

奥様の弁によると「主人よりよっぽど稼いでいるのに、パートと同じ位の給料しかダメというのは到底納得できない」と私に訴えられました。それが実感なのです。

また、同業者から法人化すれば節税になると言われ件の税理士に相談しても「まだ早い」と、またまた「ダメ出し」です。

にもかかわらず、税務調査は調査官に押される一方です。いよいよ税額が決まる寸前になって、「この税理士と縁を切る覚悟ができた。」と私どもの事務所の扉を叩かれた次第でした。

帳簿はしっかりと付けてあります。ただ、やたらと店主貸が多いのと建設業関連にしては、休憩時間のコーヒー等費用がまるで必要経費になっていなかったのです。

どのような税務調査の結末にするかの戦略会議をご主人、奥様、私ともう一人税理士を加えた合計4人で開きました。

その会議の内容は、僅かな金額ですが納税者のミスによる一部の収入漏れの不備は蒸し返しても難しそうだったので、必要経費をどのように増やすかに力点をおくことに決めました。

ご主人と奥様2人の役割について、まず、ご主人は店主貸になっているもので仕事に関連しているものがあるかをピックアップして、その領収証などに誰と何のためにその飲食店を使ったかを調べることにしました。

また、奥様は、朝のミーティング、10時と15時の休憩の3回の自販機による缶コーヒーなどの出費を、出面帳から直接雇用している人、外注先、元請け先の人数と名前を出金伝票に書くことにしました。3年間計算するとかなりの金額になりました。

準備万端整えて所轄税務署の統括官とアポをとり、われわれ4人と話し合いをすることになりました。いよいよ話し合いの日、通された応接室でその統括官の顔を見てびっくりしました。

私が、前回にあった関与先の税務調査の立会をした時、納税者から「人権侵害があった」とかなり強い口調でクレームを言われた統括官だったのです。

クレームの内容はもっともなもので、前回の税務調査で、きちっと帳簿なども記載しているのに一番大事な売上先(売上金額の90%を占める)に、納税者の了解なしに反面調査をされ、まるで脱税でもしたようなことを売上先に言ったことに納税者はかなり憤慨されたという経緯があり、その結果、半年間その売上先からの受注が止まり、生活もままならなかったというものでした。

因みに、この反面調査があった税務調査の立ち会いもある団体の紹介で、とある税理士からの途中交代でした。この事実を件の統括官はまったく知らず、5年前の事績簿は廃棄しているし、今の事績簿にもクレームがあった記載がされていないことは「税務署の管理体制の不備だ」と納税者が主張され、「それはもっともだ」とその統括官は平謝り状態でした。前回の税務調査もほとんど問題はなく、この度の税務調査も大きな問題点もなく終わりました。  その統括官は「贖罪の念」があったのか、当方の主張をすべての受け入れてくれ、追加の要望もの部分も含めて必要経費をすべて認めてくれました。予想外の完勝でした。

納税者も大変満足され、まさに粘り勝ちの結果となりました。このような統括官の対応こそ全体の奉仕者である公務員であると思うし、税務行政がこうであると思った瞬間でした。