ある関与先さんのご紹介により個人開業の歯科医院(私と同い年で開院20年のベテラン歯科医で地域では腕の良い歯医者さんです。)の悩みを聞くことになりました。
つい一週間前に修正申告(3年分)を提出し終了した税務調査の際に、顧問税理士事務所の事務処理についてかなりの疑問・不信感が有り、税理士(以下A税理士という)の交替を強く希望されていました。
当時、関与していたA税理士は、1年の税理士業務の停止処分中であったため、名義借りをしていた別の税理士(以下B税理士という)の立会いにより税務調査が行われました。これまでの税務調査では、交際費や福利厚生費の問題だけの指摘で、収入などの漏れは一切なかったそうです。
過去の調査では、銀行調査などかなり荒っぽいものや長期間にわたる時もありましたが、今回の調査は、特別調査官と新人の女性調査官が二人で臨場し、和やかなムードで淡々と調査は進んでいったとのことでした。また、本人や奥様にも税務署側の対応は、良かったとのことでした。
特別調査官からの疑問で、各年分の保険診療収入が診療点数×10円できっちりと収入金額に計上していることはあり得ないとの投げかけがあったそうです。これについては、A税理士の勝手な判断で、診療点数により計算された金額の差額を自由診療収入で調整して申告をしていたことが判明しました。しかしある年分については前述した診療点数により計算された金額の差額を調整しておらず、総勘定元帳の収入金額と青色決算書の金額に相違があることがわかりました。他の年分については該当金額の調整を行っているが、いずれにしても不自然な金額調整がされているとの指摘だったようです。
修正申告書とその内容を税務署側が記載していたメモ書きでは、家事関連費、従業員診療の概算計上の否認(2年分で約200万円)、その他に事業所得に計上された収入と給与所得の二重計上が記載されていました。
そして、最大の問題点は給与所得の源泉徴収票がある歯科検診代を事業所得の自由診療に認定し、本来給与所得であるべき額が事業所得の自費収入になり、それによりその年分の消費税の課税標準額が1,000万円(当初申告額は約980万円)を超してしまい、当初は免税事業者であったはずのものが消費税の課税事業者となり期限後申告していました。
しかし、自由診療とみなされた給与所得はすべて、学校医・幼稚園医としてのものであり所得区分上は給与所得で、もちろん給与所得の源泉徴収票も発行されていたので、給与所得を自由診療とした根拠が不明であったそうです。立会いをしたB税理士は一言も反論もせず、「私には何もわかりません。知りませんでした。」という言葉に終始するのみで、修正申告等を提出したそうです。
本来考えられない、A税理士の業務の停止処分中の税理士がした会計処理(個人の生命保険料を事業所得の必要経費としていたことなど)が原因で多額の所得税が追徴となったのも許し難いし、開業して20年もの間、給与所得として申告してきたものが、なぜ今回の税務調査では事業所得の自由診療となるかについても、B税理士やA税理士にも不信感を抱いたそうです。
また、特別調査官が税務調査の最後に「事務処理をしてもらう人は、よく選んだ方が良いのでは…」と言われて帰ったこともあり、A税理士とは決別することを決めたそうです。人づてに頼りになる税理士を紹介して欲しいと相談をしたが、なかなか適任がいなく困っていたところ、以前からの知り合いの自営の方で私の事務所の関与先さんに相談すると「うちの顧問税理士は、凄く頼りがいがある。」と太鼓判を押されたので、私のところに相談があり、すぐに気に入ってもらって顧問契約をさせていただくことになりました。
因みにA税理士は、顧問契約の解除のときに「うちを切るつもりですか?うちはおたくとの契約がなくなっても何も困らない。」と開き直り、謝罪の言葉は一言もなかったそうです。
とりあえず「損害を与えられたものに対しての請求はしましょう。」との助言をしたところ、院長がA税理士に連絡をし、加算税、延滞税などの付帯税相当額はすぐに振込をしてくれたそうです。その理由は、「訴えられたら困るから」と言うことでした。
修正申告をした年分の確定申告については、給与に該当するものは「給与所得」として申告をすべきで、今後のためにもはっきりとした方が良いのでとはとの考えで、当該税務署と交渉をすることを決断しました。
平成13年7月に新設された「納税者支援調整官制度」というものがあり、山口県内には下関税務署に広島国税局より派遣された納税者支援調査官が常駐しています。国税庁のHPによると、納税者支援調査官について「国税庁、国税局又は税務署に対しては、処分に対する不服申立てだけでなく、職員の応対や調査の仕方など税務行政全般について、納税者から不満や注文、批判、困りごとの相談などが寄せられることがあります。このような納税者のさまざまな苦情等に正面から対応することが、納税者の理解と信頼を得るためには不可欠であると考え、納税者の視点に立って迅速かつ的確な対応を図っています。平成13年7月からは、納税者支援調整官を各国税局のほか、主要税務署に派遣配置し、納税者の権利、利益に影響を及ぼす処分に係る苦情について、権利救済手続を説明するなど、適切に対応しています。」とその意義が書いてあります。
今回、「いったん修正申告をしたものについてどのようにしたら良いか」と考えあぐね、初めての試みですが、まずはこの「納税者支援調査官制度」を活用してみようと思い、確定申告が終了してすぐ当該支援官とアポイントをとり4月3日、下関税務署の支援官のもとを訪ね納税者の苦情の申し出をおこなうことになりました。
調整官は「この制度は苦情等をお伺いして、関係部署におつなぎするだけで、問題の解決をする部署ではないことをご承知ください。」と繰り返し言うのみで、「苦情お承り係」であることを、ことさらに強調していました。どんな方がこの調整官になるのかはまったく知りませんが、とにかく笑顔を絶やさず、優しい口調で、しかもこの事案については、「先生のお話しは、もっともで私なりに重々理解できました。税務調査に関することは実際に調査した部門に、A税理士の名義貸し行為の件については総務課長にそれぞれ連絡と調整をします。」と約2時間かけて説明しました。
調整官の日程調整によりその調査の担当特別調査官に話を繋いでもらい4月23日に担当者を訪ねました。この担当特別調査官も、開口一番「今回の問題を納税者支援調査官に話を持っていくのは筋として間違っている。税務調査とその結果に異議があれば、直接私に電話をしてきたらいい。更正の請求や申し立ての制度を利用すれば良い。」との言い分でした。
納税者支援調整官は、「苦情処理の経緯及び顛末について、処理の進展の都度整理しその内容を国税局総務部総務課長に報告する。」という義務があるようなので管轄の異なる機関が介入するのを好まないといった意識があるのだと感じました。
担当特別調査官との話し合いではまず、「なぜ給与所得を事業所得の自由診療にしたのか」と質問をしました。当時の担当特別調査官の認識のなかでは、「単なる歯科検診ではなく、自院の棚卸資産を使用したフッ素の塗布であると聞いた。そうであれば、源泉徴収票は給与所得でも自由診療になる」ということでした。
当方の主張を丁寧にしましたところ、担当特別調査官は「事実関係がそうであるのか、そうではないのか。」を再度、納税者に確認して欲しいということになりました。
また、担当特別調査官からは、付表に記載した自由診療と雑収入の合計と消費税申告書の収入金額が相違している点について再度確認して欲しい、との要請もありました。
そして、上記の2点の確認事項がクリア出来れば「更正の請求等」を認め、還付をしましょうとの話になりました。
院長に確認したところ「フッ素の件に関しては、学校保険会からの依頼でフッ素の塗布がある場合、材料と機材は歯科医師会が提供したものを使用する。生徒から別途料金を頂くが、その金銭の受取りについては当医院では行っていない。また、個別で行っている歯科検診は、当院の場合、私立学校等からの依頼であり、フッ素塗布の要請もないので、行ったことはないし、それだけの人数に対応する機材も独自には持っていない。」という返事でした。
消費税申告書の相違の件は、単なる課税所得の計算間違い(ケアレスミス)であったことがわかりました。
以上確認のもと、再度5月9日に担当特別調査官のもとを訪ね、相互に検証した結果、担当特別調査官も「自由診療としたのは間違いであった」と認めざるを得ませんでした。その他今回、新たに判明した修正事項がいくつか出てきたため、話し合いにより本来のあるべき姿で「更正の請求等」の手続きをすれば、過大に納税したものはすべて還付することで終了しましょう、との結論を導き出しました。3年分で40万円を超える還付金額になりました。
A税理士の件は、再度調整官に総務課長へよく話をしておいてくださいと念押しをしておきました。
この結果を報告するともに、A税理士の会計及び税務処理の間違いや名義貸し行為について損害賠償請求もできますよとお話しましたが、「あれだけ精神的につらい時期をやり過ごし、やっと安心して事業に打ち込む事が出来るようになったので、今またA税理士と接触し、精神的苦痛を感じるのは勘弁してもらいたいことを理解して欲しい。」とのお気持ちのためそれについては、私も納税者の気持ちを理解しこれ以上ことを荒立てないと言うことでこの事案を終えました。