読売新聞の2018年7月27号に次のような記事が掲載されていました。記事は以下の通りです。
『介護保険料を滞納し、市区町村から資産の差し押さえ処分を受けた65歳以上の高齢者は、2016年度に1万6161人で過去最多になったことが、厚生労働省の調査で分かった。高齢化による要介護者の増加に伴い保険料が上昇し、負担できない高齢者が増えているとみられる。
全1741市区町村のうち約3割が処分を実施。処分を受けた人数は15年度から2790人増え、調査を始めた12年度以降で最も多かった。
大半の人は、年金から保険料を天引きされているが、年金が年18万円未満の人は自分で納める必要がある。こうした低年金の人が滞納しているとみられる。預貯金などの資産が少ない人も多く、処分を受けて一部でも滞納分を回収できたのは、6割強にとどまった。』
もともと「徴収実務を簡素化」し、「滞納を防止する」という趣旨から65歳以上の人の介護保険料は、年金から強制的に天引きされる「特別徴収」の人が約9割です。年々減額される年金制度になっているのに、実質的に扶養している息子さんから「なぜ社会保険料控除の対象にならないのか。」とのお叱りを無料相談会場等で受けることがあります。
一方「普通徴収」される方は、無年金の方や年金が年18万円以下の人です。これらの人の生活はおおむね苦しいことはほとんどの人がわかるはずです。こんな人に差し押さえをすることは、全体の奉仕者であるべき公務員がすることでしょうか。
私が勤務している下関市の市報にも「市税の納め忘れはないですか?」というタイトルで、①どこで納税するの、②夜間や休日に納税したい、③滞納するとどうなるの?……④督促状が送付され、督促手数料が100円必要と言うことが書いてあります。⑤延滞金……延滞金(納期限の翌日から1か月以内)だと平成29年中年2.7%、平成30年中年2.6%(上記の期限後)平成29年中年9.0%、平成30年中年8.9%との記載があります。⑥延滞が続くとどうなるの?という項目では、まず催促状を催告し、文書などで催告を促します。それでも納税がない場合には、財産を差し押さえをします。差し押さえの際、滞納者の自宅などを捜索することもありますと記載がされ、平成27年度から平成29年度ごとに財産ごとの差し押さえ件数と合計額、続いて差し押さえた財産をインターネット公売して積極的な公売に詰めている旨、⑦最後に期限内納税にご協力をと記載されています。
何か抜けていませんか?それは、様々な事情で税金等を払いたくても払えない人はたくさんいます。もちろん、財産があるのにそれをわからないように隠したり、内縁関係を続けながら本人は高級車乗っている人もいるでしょう。しかし、それは 極々一部の納税者です。
私が相談にのった人は、昼間は街のクリニックの看護師の仕事をして、夜はとあるホテルで皿洗いをしている女性で、その収入のほとんどを3人いる子供さんの養育費として生活をされていました。
ところが、その女性の持ち分がわずか十分の一しかないのに、市役所から元夫が延滞している固定資産税を払えとの督促がきたのです。民法では、共有財産にかかる税金には「連帯納付義務」があるとされていました。元夫に親権があるのですが、離婚原因が元夫の浪費にあったものです。差し押さえするにも徴税吏員には適正な手続きが必要です。その相談者にアドバイスをして、合法的に差し押さえができないようにしました。長い間固定資産税を払っていなかったので、延滞金も含めかなりの金額の催告書が来ていました。
また私の知人で、サラ金から金を借りても延滞している税金を払えと言われたということもありました。すでに私の知人は経営していた会社の倒産が原因で多重債務に陥っており、2010年に深刻化する多重債務に対処するため改正貸金業法が完全実施されたことと知り合いの弁護士を紹介して問題の解決ができ、生活保護の受給も受けることができました。
滋賀県野洲(やす)市では、「ようこそ滞納していただきました条例」(2016年4月施行)といった一見ふざけたような条例なのですが、この条文は「債権管理の適正化を通じて」「市民生活の安心の確保に資する」としていることがミソで、山仲善彰市長は「税金を納めてもらう以前に、市民の生活が健全でなければならない。市民の生活まで壊してまで滞納整理をするのは本末転倒だ。」と語っているそうです。
滞納を生活困窮のシグナルとみて、生活相談課を置き、仕事・生活・借金などに悩む相談者に寄り添って、生活再建を目指すシステムを構想しているらしいのです。ちなみに、平成28年度の収納率は97.2%で、滋賀県内の平均96.1%を上回っているとのことです。(税理士新聞2018年2月5日号参照)
昭和35年に国税徴収法の大改正があり、その会長をつとめられた我妻栄(私が学生時代に民法を学んだ本の執筆者で、その当時は我妻民法と呼ばれていた東大の教授でした)先生が、その著作の「序」で書かれているように「~いいかえれば、これらの優先的効力の主張も、強制力の実施も、真に止むを得ない場合の最後の手段としてはこれを是認せざるをえないと考えたからである」。従ってまた、徴税当局がこれらの制度の運用に当たっては慎重の上にも慎重を期することが、当然の前提として諒解されるのである。~良く切れる刃物を持つものが必要以上に切らないように自制することは、すこぶる困難である。不必要に切ってみたい誘惑さえ感ずるものである。本書がこれを戒めるためにも役に立つことを希望してやまない。」と書かれています。
この我妻先生の危惧がおざなりになっていないかどうか、徴税吏員の自己チェックをして欲しいものです。