月別: 2019年10月

税理士的行動心理学へのアプローチ(中編)~悪質な業者へのクレーマー、悪質企業経営者や企業、問題点が多い働き方改革を斬る~

(1) 最近のクレーマーの特性と対応策

日経新聞の2019年2月24日号に「悪質クレーム企業が対策」という大見出しでカスタマーレーマー(以下、カスハラと言います)の実態とその対応策が掲載されていました。

リードには『ささいなミスに暴言を浴びせかけ、上司を読んで土下座を求める。こんな顧客から従業員を守る対策を企業が求められている。執拗なクレームを受けると働く人の意欲が下がり、最後はサービスの低下につながるためだ。かつては顧客の泣き寝入りが問題だったが、今は顧客重視の姿勢が従業員を追いつめる。厚生労働省は働く人を守るための指針作りに動き出す』とありました。

本文を要約すると『ある鉄道会社、駅員がつけているネクタイは引っ張るとすぐに外れる。2017年度には、乗客から駅員の暴力が午後10時から終電までに77件あった。外れるネクタイは、酔って暴力を振るう乗客から身を守る手段の一つだ。カスハラはある日突然、見知らぬ人から受けて精神的に追いつめられる。

消費者の声は本来、企業にサービスの改善を促すものだ。顧客の苦情から商品の不具合がわかり、リコールにつながることも少なくない。一方、客業で働く人の半数以上が暴言や脅迫的な態度などの迷惑行為を受けていた。ごく一部の顧客とのトラブルでも従業員との重いもめ事は他の顧客を不快にする。各企業は、ガイドラインを作成し、警察などに相談したり、カウンセラーにも相談できる体制づくりをしている。

厚生労働省も今の通常国会には、パワーハラスメントを防ぐ措置を企業に義務づける法案を提出する。ハラスメント問題に詳しい弁護士は「厚労省が指針を作っても、クレームが悪質かどうかを判断することは難しい」と指摘。それは、もし正当なクレームだった場合には、企業の機会損失にもなりかねないという。』

AI(人工知能)を活用して、電話やメールなどの内容を分析し、担当者が見逃している顧客の顕在的な不満を解消するシステムを開発したベンチャー企業もあります。また、悪質クレームに対応するための弁護士費用をカバーする新しい損害保険も発売されています。企業がその他多くの対策を練ることが求められています。

(2) 企業とそこで働く人の問題点

反対に、飲食業のスタッフが不適正な動画をネット上にアップして炎上したことも多々発生しています。そのために、大手飲食チェーンが全店休業してスタッフ教育したということにもあるように企業内部からの悪質ないたずらや個人情報の流失、使い込みなど頭の痛いことも数多あります。そういう例は、スタッフに限った話ではありません。

カルロス・ゴーン氏にみられるように企業のトップが企業を食い物にしているモラルハザードもあります。鶏卵大手創業者が外国子会社からの配当のほとんどが非課税になるという方法を悪用したことで、創業者が所得税を約7億円申告漏れされたことが新聞報道されました。その記事を見ると、その端緒が富裕層や多国籍企業が利用しているタックスヘイブン(租税回避地)との関わりを記した「パナマ文書」であったということでした。もっと多くの個人や企業名が記された「パラダイス文書」を追いかけていけば、もっと不正をしている企業経営者や企業もあると推認できます。

(3) 働き方改革の背景と問題点

厚生労働省のホームページから引用すると「時間外労働の上限規制が導入されます」という見出しを出しています。
残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。施行は大企業が2019年4月から中小企業が2020年4月から実施されます。

臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、以下を超えることはできません。年720時間以内、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)の労働時間になります。「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」が全て1月当たり80時間以内になります。月100時間 未満(休日労働を含む)月80時間は、1日当たり4時間程度の残業に相当します。

また、原則である月45時間を超えることができるのは、年間6か月までです。
※上記に違反した場合には、罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科されるおそれがあります。

改正前法律上は、残業時間の上限がありませんでした(行政指導のみ)、としています。

1947年に制定された労働基準法の約70年ぶりの大改正となる働き方改革関連法は、これまで“青天井”だった時間外労働(残業)の上限を決め、違反に罰則を設けたことが特徴でした。

働き方改革を後押ししたのは、2015年に過労自殺した日本最大手広告会社「電通」の新入社員、高橋まつりさん=当時(24)=の違法残業でした。彼女の月の残業は100時間を超え、1日2時間の睡眠を強いられ鬱病を発症しました。夢を持って入社し、将来のある高橋さんのケースは社会問題へと発展し、電通を罰する刑事事件に発展しました。

因みに、日本の長時間労働は国内外から批判の的で「過労死(karoshi)」が初めて英語の辞書に掲載されたのは2002年です。今や「寿司(sushi)」と同じく国際用語になっています。

しかし、この法案は様々な問題点と「偽装」を抱えながら、最近の与党の常とう手段である数の力での強行採決でした。どうして、そんなに拙速にしなければならないのでしょうか。

最大の問題点は、雇用対策法の役割を大きく変質させることです。法律の名称を「雇用対策」から「労働施策」に変え、他の先進国から大きく遅れているといわれている「労働生産性の向上」を目的にしています。また「多様な就業形態の普及」が国の施策と位置付けられています。換言すると「同一労働、同一賃金」という当たり前のことをかなぐり捨て、労働者同士を分断して格差を助長することにつながります。また、労働者保護法制が適用されない働き方も含む「多様な就業形態の普及」を国の施策に加えることは、無権利・低所得の労働者を増大させることにつながります。

さらに、あまりにも低い最低賃金のかさ上げ不足と「都道府県別」に格差があることです。つまり首都圏との賃金格差です。例えば神奈川県の最低賃金(2018年10月1日)は1時間983円です。因みに東京都は985円です。県境である千歳川を挟んでいる静岡県は858円でその差は125円、山口県は802円でその差は181円です。仮に2000時間働くと年間362,000円の差が出ます。それが若年労働力を中心とした首都圏への社会減の要因の一つとなっています。首都圏には公共交通機関が充実していますが、山口県のそれは余りにも不十分で、車がないと実質的に移動ができません。したがって、医療機関の診療報酬のように全国一律とすべきです。

仮にこの法律が施行されても、形式上は時間外労働に押さえられても実質の労働時間は変わらないでしょう。例えば私の義理の息子は、上場企業のエンジニアである素材の試験や研究をやっています。帰宅はほぼ毎日、日付が変わる時間です。休日でも2人の子どもが寝静まって会社に行きます。それは、いったん動き出した実験装置を止めると正確なデータが取れないからだそうです。休日でも、自宅にPCを持ち帰りデータの異変がないか時々見ています。当然、そんな働き方でどこまでが所定内労働時間か残業なのかの線引きをするのは極めて困難です。

また、知人の娘さんは市役所に勤務し毎日相当な残業をされているそうです。予算で賃金が決まっているので残業時間と残業手当がスライドしていません。大阪維新の創設者の橋下氏は、公務員の給料が高すぎるのでそれを民間並みにして「公務員貴族」に大ナタを振るったといいますが、公務員は公僕です。かつては、民間企業よりもはるかに低い賃金で長期間働いていました。いざ災害や火事事件等が発生した場合は命を賭して住民を守る義務があります。現に、東日本大震災の時や消防士や警察官等は自らの命を賭した人がたくさんおられます。民間で働く労働者の賃金を上げることのほうが正論です。財政難であるならば、ムダな公共投資をやめるべきでしょう。

税理士的行動心理学へのアプローチ(前編)~クレームの本質と私の実践~

(1) はじめに

最近時の人となった藤井聡京都大学大学院教授は2018年まで7年間内閣官房参与の要職(防災・減災ニューディール担当)に就かれていました。

一方、経済学も研究分野で2018年11月10日に「10%消費税」が日本経済を破壊する~今こそ真の「税と社会保障の一体改革」を~という書籍を出されました。その主な主張は①速やかに消費税の増税の「凍結」を決定する、②凍結された増税で増えることが見込まれていた税収の代替財源のために、当面は、躊躇なく国債を発行する、③経済成長を目指し、それを通じて、「税収を拡大」して、それを、「消費税の代替財源」としていく(そうすることで早晩、増税するよりもさらに大きく成長し、むしろ「おつり」がかえっている)。④同時に、様々な「税と国民負担」のあり方を見直し、「消費税」に代わる様々な税項目について論議を深め、経済活性化、適正な投資の促進、株式市場の安定化、適正な土地利用の促進等の「公益の増進」を促していく、というものです。その要因はデフレ状況下で消費税を増税すれば「デフレスパイラル」に陥り、日本が「衰退先進国」になるという警鐘を鳴らされています。

その藤井聡教授は、「行動心理学」という学問もその研究テーマだそうです。「行動心理学」とは、例えば「Tax Sallience(税の顕著性)」では、消費税が10%になれば19,800円の商品には1,980円の消費税がかかることが誰にも分かり、特にいつも買い物をされる女性が買い控えをするという実証研究をするものがその学問領域だそうです。

私は藤井先生のような学者でもありませし、経済の専門家でもありません。しかし、実社会の現場の中で皮膚感覚として「行動心理」を見てきた税理士です。そうした経験則などを3回に分けて紹介をします。

(2) クレームは誤訳です

日本では、商品やサービスへの不満をその提供者側に伝えることを一般的には「クレーム」といいます。しかしクレーム「claim」を英語の辞書を引くと、動詞として「主張する」「要求する」、名詞として「主張」「要求」となっています。この誤訳された「カタカナ英語」を正確な英語で表現すると動詞としてはコンプレイン「complain(不平を言う)」同じく名詞で表現するとコンプレイント「complaint(不平)(不満)(苦情)」になりますが、なぜそうなったかわかりません。

間違った「カタカナ英語」は他にもたくさんあります。広島カープファンである私は、マツダスタジアムで「ナイター」観戦をしたいのですがなかなかチケットが取れません。この「ナイター」も間違った「カタカナ英語」です。正しくは「night game」ですが、おそらく運動選手が「play(運動をする)」に「er」をつけて「player(運動選手)」になることに合わせて、「night(夜)」に「er」をつけて「nighter(ナイター)」という誤訳につながったのだと思います。

他にも身近な「カタカナ英語」があります。それは「ホッチキス」です。英語では「stapler(ステイプラ)」といいます。「ホッチキス」は考案者「Hotchkiss」の名による商標です。

(3) クレームの本質は何かを学ぶ

クレームの本質を学ぶには「グッドマンの法則」というものがあります。その法則は大手経営コンサルト会社に所属するジョン・グッドマン氏の調査や理論を顧客ロイヤリティ協会の設立者の佐藤知恭氏が命名し普及させているものです。

その法則から私たちは学ぶことが必要だと考えています。それは3つの法則で構成されています。

第1の法則…クレームをいだいた顧客のうち、実際にクレームを申し立て、そのクレームに対しての解決に満足した顧客のリピーター率は圧倒的に高い。また、不満を持っていてもクレームを申し立てる顧客は10%にも満たない。換言すれば、圧倒的な顧客が何も言わずに去ってしまう。

第2の法則…クレームを抱いてもそれを申し立ていない顧客や実際にクレームを申し立ててもその対応のまずさで不満を持った顧客の悪い噂は、クレームを申し立て満足した顧客の良い噂は前者に比較して、2倍も強く影響を与える。

第3の法則…企業の行う消費者に対してのアピールによって、その企業に対する消費者の好感度が高まり、良い噂が期待されるばかりか、その商品を購入する確率が高まることだけでなく、ひいては自社だけでなくその商品の市場拡大に貢献できる。

この法則は、すべての企業にあまねく当てはまるのではないでしょうか。もちろん、私たち税理士事務所にも当てはまります。この法則を学び、実践することがすごく大事です。

(4) 私のクレーム申し立て術

私は「グッドマンの法則」を少しかじったことで、商品に不満があるときはクレームの申し立てをすることにしています。ただし、苦情を申し立てるときには、まず自分の残念な気持ちを率直に伝え、「いつ」「どこで」「どんなことがあったのか」の客観的な事実を淡々と文書にして、現物とともにメーカーに送付するのを原則としています。その必要のないときに限り、お客様相談室の連絡先が書いている企業には電話連絡をしています。

その中で、とても良い対応をして頂き大ファンになった例と、反対にもう2度とそこでは買わないという例をそれぞれひとつずつ紹介します。

まず、よい例からご紹介します。私の趣味のひとつである登山中に起きたアクシデントです。昨年夏、あこがれの北アルプスの雲ノ平へのアタックした時のことです。天気予報通り、かなりひどい風雨に見舞われました。そんな場合はザック(登山用のリュクサックです)が濡れないようにカバーをかけます。そのカバー(ザックカバーといいます)が破損してザックの中身が大事な財布のお札までずぶ濡れになりました。因みに、登山仲間には、ザックの内部にもビニール袋で防水処理をしている人もいます。私は、「めんどくささ」と「通風が悪くなるのではないか」と思いそんな処理をしていませんでした。

帰宅後すぐにそのメーカーに現物と手紙をつけて送付しました。メーカーに現物が到着するとすぐに「カスタマー・サービス」という部署から早急に原因究明をする旨のメールが届きました。これまたすぐに、その原因が経年劣化によるものとわかりました。そのメーカーでは商品の品番を毎年変え、いつ製造したかをわかるようにしているそうです。なんと15年近く前に製造された商品でした。アウトドア用品は使用しないときに収納袋にずっと入れていたとしたら経年劣化が早く進むので、使用しないときは中身を出して風通しの良いところに保管するのが良いとのアドバイスと、不具合があったところは無償で修理する旨が書かれてありました。

私はそのメーカーの新品を購入することを決め、修理を断るとともに、収納袋に入れていて床下収納庫で保管をしていたものをすべて出してクローゼットに移動させました。

その後現物がメーカーから送付されてきましたが、丁重なお詫びとより良い製品づくりに向けて弊社一同尽力して参る旨が書かれている手紙が添付されていました。

そのメーカーは1975年に社長と2人の山仲間と共に大阪で設立した会社で、機能・軽量・迅速をコンセプトに商品開発をして、現在では約千人の社員を擁するまでに成長しています。アウトドア用品を購入する人々の中で一目置かれています。私もさっそくこのメーカーの製品を購入するとともに、その対応の良さを山仲間に宣伝しています。

悪い例は、私の連れ合いは彼女の個性なのかクレームの申立てはしません。実は、彼女がある「道の駅」で購入したジャムの蓋が空かないのです。ネットでそうした場合の対処方法を調べてやってみても空きませんでした。そこで、私にそのお鉢が回ってきました。私もこれまで経験したやり方で、開けようと試みましたが、どうしても空きませんでした。

そこで、現品を駅長あてに宅急便の着払いで送付しました。私が購入したものではないので、彼女に聞き取りをしましたが、いつ買った物なのか、はっきりしないので手紙の添付ができず、「蓋が空かない」旨と私の連絡先をメモとして入れました。

ところが、待てども暮らせども何の連絡がありませんでした。そこで、私のほうから連絡をすると現品は製造した農家に渡してあるが、まだ連絡がない旨の話でした。それと駅長は名ばかりで、そうしたクレームの責任は売り場にあるとのことでした。私は、例え名ばかりであっても最終責任者はあなたにあると伝え電話を切りました。

しばらくして現品が着払い(807円)で送られてきました。その中には現品だけでした。その後、駅長から「私がやったら問題なく蓋は空きましたよ」との連絡がありました。こちらのクレームに何の答えもありませんでした。今後もこんな対応をしていたらと思うと、この「道の駅」の将来性が心配になりました。

彼女にその顛末を話すと、2度とあの「道の駅」で買い物をしない、とかなりの憤慨ぶりでした。今までの「ファン」から一転しました。

この2つの事例からすべての企業(大も小にかかわらず)が「グッドマンの法則」をもっと学び、実践しなければならないといけないと思います。