月別: 2020年4月

驚きです、回文は英語にもあるんです!

私は、還暦の日に日本100名山を全て踏破するという目標を立てました。そして最後の100座目には家族で登れるようにと、割と簡単な山形県の蔵王山でした。標高は1841㍍で、リフトも付いているし、良い温泉もあるのでそこで祝賀会をやろうと思い2017年8月9日がきました。しかし、あいにくの台風の到来で断念、結局2ヶ月遅れでしたが見事達成をしました。

新たな目標は、英会話の習得に果敢にチャレンジしようと思い、約40年ぶりに英語の勉強を始めました。教材は主にNHKのラジオ基礎講座で中学校1年生の夏休み号から開始しました。受験英語はまったく忘却の彼方、中1のテキストにも「あたふた」でした。

島国ニッポンで住んでいる私には英語に触れる機会まるではありません。たまにTVなどのCMや業界用語で「横文字」を見聞きしても、「意味」もわからず使っていました。

勉強をしてまずびっくりしたのは、もちろん文法も発音もそうですが、単語の意味する奇想天外な面白さでした。英語で「意味する」は「mean」です。この単語は動詞ですが、形容詞になると「意地悪な」とか「口語」では「とても良い」「すごい」あるいは「平均の」になります。さらに名詞になると「中間」「中庸」となります。多分習ったのでしょうが、自ら辞書を引くと新たな発見があります。

「働く」という単語は動詞では、「work」ですが、名詞には「作品」という意味があります。そして、「a hard worker」は「働き者」だけでなく「勉強家」「努力家」という意味もあるのです。奥深いですね。私もa hard workerになりたいと、毎日教材と辞書にラインマーカーを入れていますが、覚えては忘れの連続です。

さて、もうひとつ発見したのは、「回文」です。上から読んでも、下から読んでも同じように読めることばや文章のことです。

調べてみるとこの回文は、日本語だけでなく、世界のさまざまな言語に見られ、すでに1世紀中ごろにはラテン語による回文が成立していたそうです。

最もポピュラーなのが「新聞紙」(しんぶんし)、ちょっとひねったものが「烏賊食べたかい」(いかたべたかい)ですかね。少しひねると、「世の中ね、顔かお金かなのよ」(よのなかねかおかおかねなのよ)なんかになります。

これの「回文」が英語のも出てくるのは驚きました。2019年10月号の基礎英語3には「Too bad, I hid a boot!」(残念、ブーツの片方は隠しちゃったぞ!)同じく12月号には「No lemon, no melon」(メロンなくして、メロンなし)2020年3月号には「Borrow or rob?」(借りようか、それともうばっちゃおうか?)」というフレーズが載っていました。

税法やその周辺知識を身につけるが最近とても苦痛です。しかし、新しい分野の英語を勉強することはとても新鮮です。そして、なかなか手強いのも私の好奇心を駆り立てます。

いつかもっと時間のゆとりができたら、妻と一緒にツアー旅行ではなく、海外旅行に行きたいと思っています。妻も乗り気で、妻は週2回、私は週1回外国人の先生のところにレッスンに通っている今日この頃です。

社会保険の負担金も応能負担で~頭打ち制度の廃止を提案します~

「75歳以上の後期高齢者が支払う公的医療保険の水準が4月から全ての保険料が上がる。1人あたりの平均保険料は東京で初めて年10万円を超え、島根や青森では2割超上昇する。」との新聞記事が出ていました。

団塊の世代が全て後期高齢者になるので「2025年問題」という言葉もあるくらい医療保険の給付と負担をどうバランスさせるかが問題になっています。

その新聞記事によると「年43兆円の国民医療費のうち、後期高齢者の医療費は16兆円を占める。1人あたりの医療費の額は年92万円と45歳から64歳の3倍にのぼる。窓口負担を除く医療費の1割を後期高齢者の保険料、約5割を国や都道府県などの公費、約4割を現役世代からの「仕送り」でまかなう仕組みだ。」と報じていました。

さらに記事は「実際に医療機関にかかった際に支払う後期高齢者の場合は原則1割だ。現役並みの所得があると判定されれば3割になる。今後は一定所得なら2割負担を求める所得の区分も設けて、後期高齢者の自己負担を見直す。」と今後の方向性を示していました。

この記事を見て感じたのは、いかにも高齢者の医療の給付と負担のバランスが崩れ、高齢者がもっと負担をするような印象を与えるように思えます。

考えないといけないのは、第一に将来の「社会保障費の増加」理由に消費税を1989年4月から導入したのではないかと言うことです。ところが導入された消費税は、法人税や富裕層の減税に使われてきました。税の理屈で言えば法人税に累進制度を導入することが求められます。また、所得税の最高税率も引き上げるとともに、分離課税をしている株式等の総合課税化をして、国の責任で社会保障の負担の割合を大きく引き上げることが大事です。

第二に、高齢者に富が偏在している傾向があります。多くの預・貯金を高齢者が所有しています。したがって、所得(フロー)から保険料を決めるのではなく、資産(ストック)を加味して決めることが重要だと思います。しかもそのウエイトを、相対的に所得より資産に置く方が良いのではないでしょうか。資産家から多くの負担をしてもらう必要性を感じます。その場合、株式等の運用で利益を出しながら特定口座で所得申告をしていない人の負担もしてもらうべきです。また、相続税の基礎控除が下がり大衆課税化しているので、富裕層にもっと負担をしてもらうように相続税の最高税率を上げることが必要だと考えます。

第三に、4割を現役世代から「仕送り」している層の負担のあり方を見直すべきです。現在、健康保険は月額139万円で頭打ちをしています。税率は低くなっているとはいえ累進課税を所得税は青天井で適用しています。私はここにメス入れるべきではないかと思います。上場企業で年収が1億円以上の役員は570人、国税庁のデータによれば1億円の年収がある人は約2,400人、トヨタの社長で約3.5億円、上場企業の役員報酬の平均年収は約3,000万円といわれています。また、平均年収の1位はM&Aキャピタルパートナーズは、平均年齢は31.3歳と若いものの2,478万円です。5位の三菱商事は1,607万円です。このような人たちからも健康保険料を徴収したらかなりの保険料が入るのではないかと思います。

租税における応能負担の原則を深読みすると

(1)応能負担の原則

簡潔に言えば「その負担できる能力のある人(法人を含む)の所得や財産に応じて租税を負担する」と定義できます。特に法律で定められているものではありませんが、以下の憲法の諸原則などから導き出されるものです。

具体的には①〔納税の義務〕第30条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。②〔課税の要件〕第84条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。③〔個人の尊重等〕第13条 すべて国民は、個人として尊重される。④〔平等原則等〕第14条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。⑤〔生存権等〕第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。⑥〔財産権〕第29条 財産権は、これを侵してはならない。となっています。(条文は簡略化し、読みやすいようにしています)

(2)応能負担原則の具体化

では、これを具体的に応用すれば次の4つに分類することができます。

①直接税中心…税は消費税のように同じ税率だと広く、薄く課税することとなります。そうなると富裕層でもそうでない人にも同じ税率をかけることになり選択の余地がなくなります。つまり「逆進性」が強くなります。したがって、所得税のように直接税を中心に課税することを原則とすべきです。しかし現行の法人税は、中小企業が活用できる800万円の軽減税率15%を超えれば全ての法人が23.2%の比例税率になっています。1984年43.4%、87年42%、90年37.5%、98年34.5%、99年30%、2012年25.5%、15年23.9%、16年23.4%、18年23.2%と、どんどん下がっています。本来、法人税にも累進税率を適用すべきですが、それどころか資本金が10億円を超えると実際に納める税率が下がっていく租税措置法などがあり、ここでも不公平になっています。

②総合課税と累進課税…現行の所得税は、株式の譲渡・配当、土地の譲渡、利子など分離(別計算)して課税しています。この税率は国税で15%です。所得税は、所得が多いほど適用税率が高くなる「超過累進課税」を採用しています。バブルが始まった頃は15段階ありました。しかし、バブル崩壊と平成大不況に見舞われていた1999年には税率が4段階(10%、20%、30%、37%)まで圧縮されました。現在の税率区分は7段階となりましたが、最高税率は45%でピーク時(1983年以前)の75%より30ポイントも低い状況です。したがって課税所得が1億円を超す人は、株式の譲渡・配当が多くなり「逆累進制」になっています。総合課税化と累進課税の強化を原則とすべきです。

③生活費非課税…憲法第25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障し、社会福祉保障及び公衆衛生上の向上と増進について国の努力を規定しています。しかし生活保護費(下関市在住、小学生1人、中学生1人を抱える母子家庭)は19万円にもなりません。国民が人間としてまっとうな暮らしをしていく上ではあまりにも低いと言わざるを得ません。それがどんどん削減されています。所得税の基礎控除は38万円となっています。所得が基礎控除を超えれば課税されることになります。必要最低限の生活費に課税することは憲法25条に違反しています。所得控除を最低でも100万円くらいにはすべきでしょう。

④勤労所得軽課・不労所得重課…所得税には10種類の区分がありそれぞれ別計算をすることになっています。その中で勤労所得(汗水垂らして働いて稼ぐもの)は、事業所得、給与所得、退職所得、雑所得があります。本来ならば、これらの所得が軽い税金、その他の所得が重たい税金を負担することが原理原則にかなったものになっています。上述したように株式の譲渡・配当所得のようなものは富裕層にとっては軽いものになっていますが、それ以外の人にとっては重たいものになっており逆転現象になっています。なおかつ、給与所得には給与所得控除があって優遇されていると事業所得者からは言われ、反対に給与所得者からは事業所得者は、何でもかんでも必要経費にしているとの応酬があります。まさにコップの中のけんか、言い換えると政府による弱い者の分断作戦に乗せられています。

(3)まとめ

以上見てきたように、日本の税金はどんどんゆがんできています。あるべき税制の姿を変えるのは選挙で選出された国会議員、つまり国会で決まります。

どの政党が、どのような税金に対するビジョンを考えてそれを投票の基準しなければこの問題は永久に解決されません。

しかし、およそ半分の有権者が投票に行っていない現実が横たわっています。この国をどんな形にするかそれを決めるのは1人1人の国民の意思にかかっています。新型コロナウイルスの関係で、解散の時期がどうなるか不透明ですが、どの議員、どの政党が税のあり方を示しているのかしっかり見定めて投票行動を行いましょう。

 

国民生活を守るのは消費税減税(0%)が一番

コロナウイルスの影響がとどまるところを知らない状況になっています。安倍首相は4月7日、「緊急事態宣言」出しました。

朝日新聞の8日付けの記事を要約すると①対象は東京都など7都府県、②期間は大型連休が終わる5月6日まで、③解除・延長は、専門家の評価をもとに判断、④都市封鎖は行わず、可能な限り経済社会機能は維持、⑤人と人との接触機会の7~8減をめざす、というものです。テレビのワイドショーでも井戸端会議でもこの話題で持ちきりです。

すでに世界保健機関(WHO)が3月11日にパンデミックを宣言しました。個人的には今般の対応は全て「後手、後手」のような気がします。

プリンセスダイヤモンド号の乗客から感染者が出たとき、目に見えないウイルスを封じ込めることがいかに難しいかが明らかになり、その後も、和歌山県の有田病院、大阪のライブハウスや中国からの旅行客を大量に受け入れていた北海道でクラスター感染により感染者が急増、現在、全国的に発生源が不明な患者が増加していることを教訓化したらもう少し早く対応ができたのではないでしょうか。専門家委員会と相談しての決定と言いますが、議事録はすぐには公開されないようで、国民の不安は募るばかりです。

しかもその期間の経済的損失は「自己責任で何とかせよ」という姿勢が見て取れます。それは、安倍首相がドイツを意識してのGDPの20%の108兆円の緊急経済対策の事業規模のまやかしです。この中には昨年12月に決定した経済対策の未執行分20兆円、負担を先送りする納税・社会保険料の猶予分26兆円まで含まれています。いわば粉飾して国民を煙に巻いていると言わざるをえません。

その目玉は、収入が減少した世帯に1世帯あたり30万円現金給付を行うというものですが、その要件が非常に厳しく、経済評論家の森永卓郎氏は「現金給付に所得制限をかけようとしているが、収入が減ったなんてどうやって証明するのか」とコメントされています。また、有り体に言えばまず「医師の診断書を取ってからでないと適用しない」という仕組みになっています。必要なのは、今必要なお金なのです。

さらにこれは、新たな不公平を生む内容になっています。例えば、世帯主の収入減になっているので、配偶者などのものは考慮されません。また、わずかの減少金額の差で、もらえる人ともらえない人が生じたり、逆転現象も生まれてきます。これなら、申請者には誰でも10万円給付できる形の当初案の方が早く進むし、公平や平等が担保できます。つまり「医師の診断書」なしで適用できるようにした方がまだ良かったのではないかと思います。

しかし、究極の経済対策は、与野党から上がっている消費税の減税です。自民党の国会議員有志は3月30日、消費税の実質0%引き下げを求める緊急声明を発表しました。この声明をまとめた安藤裕衆議院議員は「消費増税によって経済は壊れている。デフレ状態が続くうちは消費税を大幅に下げるべきだ」と話しています。

消費税を0%にすることは実務的には税率変更時の手続きと同様であり、すでに事業者、税理士、税務署職員共に全て経験済みで大きな負担は発生せず、かつ、その効果は全ての国民が享受することができるものです。何より逆進性の強い消費税は、経済的に弱い立場にある人には大きなインパクトがあります。

現在のコロナウイルスでのさらなる景気の落ち込みを踏みとどめるためには、消費税率をゼロにする以外に道はないと考えています。財源は、当面は国債で賄い、景気が回復軌道に乗ってきたら消費税ではなく、消費税導入前の「物品税」に先祖帰りをすれば良いと思います。

 

3つの財務分析指標の計算式とその活用(その3)

第1回目は「損益分岐点売上高」、第2回目は、「自己資本比率」をなるべく平易に、それなりに詳しく述べてきました。最終回は「総資本経常利益率(Return On Assetsを略してROAとも言います)」を解説していきます。一般的にはReturnは日本語では「収益」です。Assetsとは日本語では「総資産」です。第2回目で解説したように「総資産」と「総資本」は一致します。したがって投下した資本に対する収益を言います。
「損益分岐点売上高」は、P/L(損益計算書)的思考と解説しました。また、自己資本比率は、B/S(貸借対照表)的思考と解説しました。そのどちらの思考も大事ですが、ROAはその両者を兼ね併せた分析指標なのです。

人間には、それぞれ個性があります。特に、会社を運営する経営者にはその個性が一般の人より大きいのは当然だと思います。しかし、いかに個性が強いと言っても大事なことは「バランス力」だと思います。そのバランス力を財務分析に当てはめたものがROAなのです。

 

総資本経常利益率(ROA)とは

(1) 総資本経常利益率ROAの算式

この算式は、会社が投下した資本に対してどれだけの収益を生み出すかを表す指標です。算式が示すように、分母が総資本というB/S項目、分子が経常利益というP/L項目になっています。つまり、上述したように会社が投下した資産についてどれだけの収益を獲得したかという収益の善し悪しを表します。

 

(2) 分子に経常利益を使う理由

会社の利益を表すものとして、売上総利益、営業利益、経常利益、税引き前当期純利益、当期純利益があります。

売上総利益は、売上高から売上原価を控除した利益で、いわゆる粗利(あらり)を言います。この粗利は、業種、業態によって大きく変わります。例えば、卸売業のように極めて利益率が低いものから、コンサルタント業のように原価がないものまで様々です。また、委託販売と直販では利益率はまるで違います。
営業利益とは、会社が本業で稼いだ利益のことです。つまり売上総利益から販売費や一般管理費を引いた利益を言います。

経常利益とは、本業である営業利益から、営業外収益・費用を加減算した利益です。主には金融機関に対する支払利息がその主な項目で、会社が経常的に獲得した利益を意味します。金融機関も着目する利益です。
経常利益から、臨時・巨額の損益を加減した税引き前当期純利益を算出し、そこから法人税等の税金を控除した金額を当期純利益と言います。したがって、一番下にくる利益が当期純利益として表示されます。

経常利益を使う理由は、中小零細企業で余り臨時・巨額の損益が発生しないことや赤字企業と黒字企業との比較可能性、零細企業と巨大企業との比較可能性によることにあります。

 

(3) ROAを展開してみると見えてくるものがある。

ROAは次のように展開(分解)できます。
算式は次の通りです。

キーワードは、二つの算式にある売上です。左側の算式は「売上高対経常利益率」を表しています。つまり、売上に対する経常利益の割合なので、この数字が良ければ良いほど収益力の高い会社といえるでしょう。

右の算式は、「総資本回転率」と言い会社の効率性を測定するもので、会社の「財産」を十分に活用し、うまく売上に結びつけることを意味します。

分母の売上高と分子の売上高は、下記のように相殺されます。つまり総資本経常利益率は、売上高対経常利益率と総資本回転率を掛け合わせた優れものの指標といえるでしょう。また、P/L的思考とB/S的思考の合体作ともいえます。

 

(4) この算式をどう活かすか

①自社の経年比較

まずすべきは、自社の経年比較です。まずは直近1年分の決算書から、貸借対照表の総資本と損益計算書の経常利益をピックアップします。この数値は簡単にわかるので、後は算式にはめ込めば完成です。これで、自社の収益力がわかります。

できれば会社設立後の決算書があれば同じ要領でやってみましょう。これと併せて、社歴等(例えば、従業員の数の変化、役員の異動、得意先の数、貸倒れの発生、社会・経済情勢のわが社への影響等)を対比すると参考になります。大きな会社の流れが見えてくると思います。

また月次決算をやって、月々の推移を見ることも有効です。それができないなら4半期毎、それも難しいようであれば半期毎に出してみましょう。

②業界により数字は大きく変わる

業種ごとにその比率は異なります。例えば、情報通信業7.6%、製造業5.3%、小売業4.1%、不動産業2.9%、飲食業2.3%、非製造業3.9%、全産業4.3%と言う具合にばらつきがあります。

自社の数値と業界の水準を比較することにより、自社の業界でおかれているレベルがわかります。

御社が化粧品の製造業を営んでいるとします。売上は5億円ですが、経常利益は3,000万円、総資本が6億円とします。そうすると総資本経常利益率は、5%になります。

化粧品メーカーの最大手は資生堂です。最近はインターネットですぐに検索できます。資生堂は1.1兆円と相当大きな売上をたたき出しています。しかも総資本経常利益率も9.8%とかなり高水準です。しかし、驚くことに売上が資生堂の1/3のコーセーの総資本経常利益率は18.9%もあります。両者の比較をしてみてその違いを分析し、その違いを御社に取り入れることができます。

③上場している同業者他者との比較

御社が布団の小売業を営んでいる会社とします。売上2億円ですが、経常利益が800万円、総資本が1億円とします。そうすると総資本経常利益率は8%になります。

スーパーマーケット最大手のイオンの売上は8.5兆円もありますが、総資本経常利益率はわずか2.1%です。コンビニエンスストア最大手のセブン&アイ・ホールディングスの売上は6.8兆円ですが、同比率は7.2%です。百貨店最大手の高島屋の売上は0.9兆円、同比率は3.0%です。衣料品最大手のユニクロ(ファーストリテイリング)の売上は2.3兆円、同比率12.7%です。

小売業にもいろいろな業態や取扱品目がありますが、なぜユニクロとイオンの総資本経常利益率が片や2.1%、片や12.7%と6倍も違うのか考えることも、今後の自社の経営のあり方(経営戦略)の参考になると思います。

大手企業は、社会構造やユーザーの流行の大きな変化や天変地異などに対応することは組織が大きいがために舵を切り替えるのは難しいことが弱点だと思います。しかし、中小零細企業は、組織が小さいが故にそれが容易にできます。しかし、一歩舵取りを間違えると第2回目に紹介した企業30年説のように市場から退場(つまり倒産や廃業の憂き目を見る)することになります。

 

(5) どのような改善の工夫をしたら良いのか

これまでの説明で、売上高対経常利益率と総資本回転率を掛け合わせた総資本経常利益率は優れものの財務分析指標と言うことがおわかりいただけたことだと思います。

では、どこをどう変えたら良いのでしょうか。一言で言えば、会社が自社の資産(資本)を効率良く利用することによって、なるべくたくさんの経常利益を稼ぎ出すことが総資本経常利益率(ROA)重視の経営です。

具体的に言えば、第1回目で説明したように固定費、その中でも一番比率の高い人件費を相対的に減らしていく(言い方を変えれば、生産性を高める)工夫が必要です。つまり、付加価値の高い商品を製造したり仕入れたりすることが、販売費を使わずに売上を向上することにつながります。

売上高は数量×単価で構成されます。売上高を戦略的に薄利多売で数量を増やすか、高付加価値商品を販売することで単価を上げるのか、あるいはその両方をやってのけるか、そこが経営者の腕の見せ所だろうと思います。もちろん、売上総利益を向上させることが前提です。

その上で、無駄な経費をそぎ落とすことが求められます。比喩的に言えば、ベンツから軽四への切り替えの発想が必要です。これが売上高対経常利益率を高めることになります。いわゆるP/L型思考です。

総資本回転率を高めるには総資本を減らしながら売上をどう高めるかが重要です。第2回目で説明した①余剰な預金は極力減らす、②売上債権を減らす工夫をする、③在庫を極力少なくする、④仮勘定などの整理をする、⑤固定資産を減らす努力をするなどで分母の総資産は減らせます。

売上高の高め方は前述したところですが、中小零細企業の経営者のほとんどの方が、売上さえ上げれば経営は上手くいくという観念にとらわれすぎだと言うことを実務家として憂いています。問題はその売上が販売先であるユーザーに満足してもらえること、そして自社の利益にもかなうものであること、また社会的に見てその取引が正当であること、つまり近江商人の教えである「三方よし」、買い手よし、売り手よし、世間よしを地で行くことが求められることです。

(6) 3回を通じてのまとめ

3回にわたり、3つの財務分析指標とその活用というテーマで考察をしてきました。第1回目は「損益計算書売上高」第2回目は「自己資本比率」そして最終回の第3回目は「総資本経常利益率」を取り上げてきました。

経営者としてこれだけはと言う指標を私なりに考えました。納得していただいた方には是非とも、実践をしてほしいものです。