月別: 2021年3月

地銀の再編は、中小企業や住民に幸せをもたらすのか?~政府が後押しをする加速策を考える~

政府は20年11月に施行した特例法で地方銀行を向こう10年間、独占禁止法の適用対象外としました。地域に欠かせないインフラとして寡占に目をつぶっても体力を高めていくことが狙いです。また日銀も20年10月から3年間の時限措置として、経営統合などの条件を満たす金融機関を対象に、日銀に預ける当座預金の残高に年0.1%の金利を上乗せします。さらに地銀の合併に1件30億円を補助する交付金制度の創設も進めています。

この背景には、日銀の19年のレポートがあります。それは、人口減少によって資金需要が細り利ざや縮小に拍車がかかり、10年後、約6割の地銀が最終赤字になるというものです。

菅首相は、官房長官時代の18年の秋に「日本には1,900兆円の個人金融資産といった大きな潜在性がある」「これで赤字になるような地銀はまじめにやっていないんだ」と発言し地方銀行に対しての不満を口にしました。折しも、16年にマイナス金利導入から2年がたって、金融機関の利ざやが縮小して地銀の経営に大きな影響が出ている時でした。

この発言の真意は、「地方にお金を行き渡らせる金融緩和の継続は欠かせない。地銀は自らが知恵を働かせ地方に仕事や雇用を生み出すべきであり、そうした努力をしない銀行まで救うのは難しい」というものです。※日経新聞の特集、地銀大改革を参照

菅首相は昨年秋に自民党総裁選挙に立候補したときに、異次元の金融緩和について聞かれ、「地方の銀行は将来的には数が多すぎる」「地方銀行の再編も一つの選択肢」という発言をして、地銀の再編に意欲を見せていました。

この既定路線により、地銀の再編を急がせて「収益力の強化」ばかりを推し進めていけば、これまで良好な関係を築いてきた中小企業に対しても「貸し渋り」や「貸し剥がし」の心配が出てきます。地銀が寡占状態になると、地元の中小企業に選択の余地はなくなり、仮に貸し剥がしに合えば他に相談する金融機関はなくなってしまいます。

また、既に進んでいる支店の統廃合が一気に進んでしまします。大和総研によると、ここ数年で約1,000店舗の削減計画があるようです。それは、利用者の利便性を損なうものです。日本の銀行の支店が多いかというと既に少なくなっています。

人口10万人あたりの金融機関の店舗数(郵便局を除く)は、スペインが67、フランスが57、イタリア50、ドイツ42、アメリカ36、日本25、イギリス17となっています。ATMやネットバンキングの普及があっても、行き届いた暖かいサービスを受けたい中小企業や地域住民にとって地銀の支店の存在は欠かせません。

菅政権の中小企業政策の基本は「生産性の低い中小企業の再編の促進」です。今後20年に企業数を現状の6割程度に圧縮する計画を立てました。これを裏付けるように、税制でも「中小企業の経営資源の集約化に資する税制」として、中小企業の買収に関わる法人税の軽減措置を導入しました。

地銀の再編を追求すれば必ず切り捨てられる層が出てきます。銀行法第1条では「国民経済の健全な発展に資する」と高らかにうたっています。地銀再編の流れには疑問を抱きます。

コロナ禍で求められるのは消費税減税では?!~世界の潮流で見えてくるものは~

消費税は所得が少ないほど負担が多い逆進性の強い税金です。コロナ禍で増えている年収200万円未満の人は所得の10.5%の負担になり、年収2000万円の裕福な人は1.8%の負担ですみます。収入のまったくない人も、支出する度に容赦なく消費税がかかってきます。

中小零細業者は消費税を価格に転嫁できず、身銭を切りながら消費税を払っています。法人税や所得税は業績が悪ければ税の負担はありません。しかし、消費税は赤字でも支払わなければならない中小零細業者にとって過酷な税金といえます。

この消費税が導入されてから32年間、法人税率と所得税の最高税率は大幅に下げられてきました。大企業と富裕層は減税の恩恵を受け、その一方で中小零細業者と庶民は増税に苦しみ続けています。その結果、大企業と中小零細業者、富裕層と庶民の所得格差は想定外の大きさに拡大しています。

ところで、世界を見渡せば消費税(世界の多くは付加価値税と呼んでいます)の減税に踏み出した国が50カ国になっています。コロナ禍で消費税の減税がトレンドになっています。

その減税方法は二つに区分できます。一つは、飲食店、ホテル、映画館、美術館など売上が激減した業種に限定した引き下げです。例えば、イギリスでは、飲食店や観光業に対して20%の標準税率から5%の軽減税率に引き下げをしました。ベルギーではホテル、カフェなどに適用されていた21%の標準税率とレストランに適用されていた12%の軽減税率をそれぞれ6%に引き下げました。オーストリアもレストラン、バーに適用されていた20%の標準税率を5%に引き下げています。ノルウェーでは旅客運賃、映画館などに適用されていた12%の軽減税率を8%に引き下げています。さらにウクライナ、チェコ、コスタリカ、ウズベキスタンでは文化事業などで引き下げを実施しています。

もう一つは、業種を問わずすべての事業者に対して減税をしているやり方です。例えばドイツでは、19%の標準税率を16%に引き下げ、7%の軽減税率を5%に引き下げました。韓国では年間売上6000万ウォン(540万円)以下の個人事業主の税金を免除しています。中国では簡易課税を選択している小規模事業者に適用される売上高の3%の税率を1%に引き下げをしました。アルバニアでは中小企業の税を免除にしています。

二つの引き下げのうち日本がまねをするならドイツのように業種を限定しない引き下げです。また、韓国や中国、アルバニアのように中小業者に免税や軽減税率にすることは疲弊している経済にカンフル剤を与える効果が期待できます。ただ、この諸外国の減税措置は期間が一年足らずの限定措置です。日本の場合には、当面5%に引き下げ、さらに廃止へと展望することが可能です。

税のゆがみを是正し公平な税制を実現することがその担保です。「不公平な税制をただす会」の試算では、大企業や富裕層に応分な負担を求めることにより年間42兆円もの財源が生まれます。それを実現すれば、消費税の減税、そして廃止が展望でき、社会保障の財源も生み出せます。資本主義の大前提は「富の再分配」です。多くの人が声を上げましょう。

自助、みんな頑張っています!!~思わず本音が出たのか`生活保護`~

1月27日の参議院予算委員会で、菅首相の本音が出てしまいました。朝日新聞の記事(1月28日付)よると立憲民主党の石橋通宏議員の「弱い立場の方にも自助を求めるのか」「収入を失って路頭に迷う方、命を落とされる方が多数に上っている。政府の政策は届いているのか」などと質問。その上で、「政府の政策が届いていないことが明らかになれば、首相の責任で届けてくれるか」と首相の姿勢をただしました。

これに対して、菅首相は「いろいろな見方がある。対応策もある。政府には最終的には生活保護という仕組みも。しっかりセーフティーネットを作って行くことが大事だ。」と答弁しました。

石橋議員は、朝日新聞の取材に「あぜんとした。生活保護に至らないように政策を打つことが本来の『公助』なのに、何もしなくていい、というようなものだ。自助で頑張れ、というのが首相の基本姿勢であることが、残念ながら確認できてしまった。首相の『公助』が生活保護だとするなら、私の姿勢とは相容れない」と語りました。

午後の蓮舫議員は首相の答弁について「生活保護に陥らせないことが、首相の仕事、政治ではないか」と、私もまったく同感です。露骨な「新自由主義」路線を地で行くことの政治姿勢はこれまでの言動でわかっていましたが、フーテンの寅さんの「それを言っちゃおしまいよ」が思わず口に出てしまったのでしょう。

日本には、生活保護が必要な世帯の2割しか利用できていない実態があります。その要因のひとつが、保護申請のときに行われる親族への「扶養照会」です。生活保護の「扶養義務」の範囲は、イギリス、フランス、スウェーデンなどは配偶者と未成年の子、ドイツではそれに加え、成年の子と親です。

ところが日本では、2親等である兄弟姉妹、祖父母・孫、3親等である曾祖父母・曾孫、家庭裁判所が認めた場合には、おじ・おば・甥・姪までという信じられない位の範囲の広さです。

田村厚生労働大臣は、保護を開始した数の2倍の「扶養照会」をして、このうち金銭的援助が可能と回答した割合はわずか1.5%と回答しています。生活保護の申請を親族に知られたくないという人が多く、「扶養照会」が生活保護の利用を妨げている要因のひとつです。

総理にもいろいろな個性があり、それが後生まで語り草になっている人もいます。その勢いから「コンピューター付きブルドーザー」と言われた故田中角栄氏、話の前置きが長く「あー・うー総理」と言われた故大平正芳氏、「言語明瞭・意味不明瞭」と言われた故竹下登氏、口を開けば「失言」と揶揄された前東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗氏、ワンフレーズで国民をわしづかみにした小泉純一郎氏、「偽装・捏造・安倍晋三」と言われ、「募ってはいるが募集していない」という意味不明なことで言い逃れを繰り返した安倍晋三氏、さて菅義偉首相はなんと言われるのでしょうか。

大事なところでの「言い間違い」や「仮定のことはお答えできない」と説明しない、「発信力」に欠けるなどの特徴があります。さまざまなスキャンダルで内閣支持率は低め安定です。今こそ「開かれた政治」をときの宰相には期待しているのは私だけではないでしょう。