月別: 2021年5月

お役に立つ税金のミニ知識、第5回~法人の設立時の会計と税務の留意点~

全国商工新聞という業者団体の機関誌の「税金相談コーナー」に数年間にわたり執筆したものの中からセレクトし、5回にわたり掲載をします。今回はその最終回です。

最終回は、法人の設立時の会計と税務の留意点です。知っていたら参考になると思います。

(Q)事業規模が少し大きくなってきたので法人設立のアドバイスを受け、その準備をしています。法人設立前の諸費用や実際に開業までにかかった経費はどのように処理したらいいのでしょうか。

(A)法人設立までに要した費用は創立費といいます。具体的には、定款の作成費用など法人の登記のためにかかった費用や設立までに支払った事務所の家賃や社員に支払った給与、名刺・印鑑・封筒などの事務費、視察にかかった旅費交通費や交際費などです。

創立費、開業費はそれぞれ繰延資産として資産に計上します。会計上はその金額は5年以内に均等額以上を費用化することになっていますが、税法上は任意償却といって、納税者の選択によって好きな時期に好きな金額を費用として処理することができます。

したがって設立後、利益が安定して計上できるようになったときに費用化すれば節税効果が計れます。ただ、理由もなく資産に計上したままだと金融機関などから粉飾決算とみなされる可能性があるので注意が必要です。

一方、開業費とは会社設立以後、実際に事業を開業するまでに特別にかかった費用をいいます。具体的には、ホームページの作成費用、チラシ・カタログ・パンフレットなどの広告宣伝費、事務所の机や椅子パソコンなどの事務用品費、エアコンや空気清浄機などの備品費、打合せなどの交際費や交通費、事業に必要な免許取得費などです。

なお、事務所の家賃、社員の給与など設立後に経常的に発生するものは開業費には該当しません。

お役に立つ税金のミニ知識、第4回~法人の決算期の変更~

全国商工新聞という業者団体の機関誌の「税金相談コーナー」に数年間にわたり執筆したものの中からセレクトし、5回にわたり掲載をします。今回はその4回目です。

第4回目は、法人の決算期の変更の留意点です。

(Q)酒の販売を営む法人です。利益が出る体質になってきたので個人事業を法人組織に変更しました。その時に決算期を12月にしました。ところが年末は繁忙期で、棚卸もおぼつかない状況です。決算期を閑散期の5月に変更したいのですが可能なのでしょうか

(A)結論から言えば、法人の決算期の変更はいつでも何回やってもかまいませんし、手続きもそんなに難しくありません。

個人事業の事業年度は、暦年と決まっており、変更することは不可能です。ところが法人の場合の事業年度は、定款の定めによることになっています。定款の変更は登記事項ではないので、自社で保存している定款の変更だけでできます。定款の変更は、株主総会の決議が必要です。したがって、まず5月末までに臨時株主総会を開催し、定款の変更の決議をします。この決議は特別決議が必要となります。その後、速やかに定款の変更手続きをします。

それが終われば、変更した部分の定款の写しを添付した「異動届出書」を税務署、県税事務所、市役所に提出しなければなりません。提出期限の定めは特に決まってはいませんが、変更後の確定申告書の提出期限までにはした方がいいと思います。

この場合、消費税の基準年度の課税売上高の計算は個人事業者と異なります。法人の場合は5月までの5ヶ月ではなく、年換算をします。納税義務者や簡易課税の選択ができるかどうかの判定には要注意です。

お役に立つ税金のミニ知識、第3回~印紙税の基礎知識と節税~

全国商工新聞という業者団体の機関誌の「税金相談コーナー」に数年間にわたり執筆したものの中からセレクトし、5回にわたり掲載をします。今回はその3回目です。

第3回目は、意外な盲点のある印紙税についてです。

(Q)個人で宝石、貴金属の販売をしています。また、配偶者が大工の仕事をしています。印紙税の仕組みと節税方法について知りたいのですが。

(A)印紙税法で定められた課税文書に対して印紙税が課税されます。課税文書を作成すると、定められた金額の収入印紙を貼り付けて消印し、納税する必要があります。消印とは収入印紙の再利用防止が目的であることから、印鑑に限らず、署名でも認められています。

課税文書は20項目に区分されており、請負契約書(2号文書)や受取書(17号文書)などです。課税文書には、覚書や念書も該当する場合もあります。また、領収書とレシートを同時に相手方に渡すときは両方に印紙を貼る必要があります。ただしこの受取書は5万円未満のものは非課税文書になります。

印紙税の基本はどんなものが課税文書になることを把握して、きちっとその都度貼付して、消印をすることです。税務調査等で指摘されれば、その税額の3倍の過怠税の課税がされます。なお、印紙のデザインは、一定の期間で変更されます。

印紙税は、課税文書原本に課されるので、コピーの場合は課税されません。通常、契約書などは売り手・買い手の両方が原本を保管するケースが多いですが、原本をひとつ作成しもう1通はコピーで済ませることで、印紙税を半分にすることができます。

また、電子メールやFAXで文書を作成すれば課税文書には該当しない取り扱いになっています。電磁的に決済をすれば、印紙税は不要となります。

お役に立つ税金のミニ知識、第2回~個人事業者の資産の売却~

全国商工新聞という業者団体の機関誌の「税金相談コーナー」に数年間にわたり執筆したものの中からセレクトし、5回にわたり掲載をします。今回はその2回目です。

第2回目は、とても複雑な個人事業者の「資産の売却」をすっきりまとめてみました。

(Q)個人事業者です。昨年に経理に使っていた中古の軽貨物自動車を売却しました。この収入は確定申告でどうなりますか。

(A)その車を購入したときの金額と経理処理の仕方、所有期間で所得の種類と計算方法が違ってきます。

まず、その購入したときの価格が10万円未満であった場合は、売却収入は事業所得の収入金額になります。その価格が10万円以上20万円未満の場合で、一括減価償却資産としてその取得価格を3年間で経費にしていた場合も同様に事業所得の収入金額となります。

その価格が10万円以上で、固定資産として資産計上をして減価償却していた場合と10万円以上30万円未満で少額減価償却資産(青色申告の特例)として取得時の一時の必要経費にしていた場合には、売却収入は総合課税の譲渡所得の収入金額となりますので注意を要します。

譲渡所得は、収入金額から取得費と譲渡費用の合計額から特別控除(売却利益が50万円以下の場合はその金額、50万円以上のときは50万円)を控除します。取得費とは、購入価格から減価償却費を引いた帳簿価格をいいます。譲渡費用とは、売却に際してかかった諸費用をいいます。取得時から5年を超えて売却した場合には、その金額の半分が譲渡所得の金額になります。

その売却収入は事業所得になる場合も譲渡所得になる場合にも、消費税の課税売上高になります。譲渡所得になる場合にも、売却利益でなく売却収入が課税売上高になりますので間違えないようにしてください。

お役に立つ税金のミニ知識、第1回~有姿除却の意味と税務処理~

全国商工新聞という業者団体の機関誌の「税金相談コーナー」に数年間にわたり執筆したものの中からセレクトし、5回にわたり掲載をします。

第1回目は、意外に知られていない「有姿除却」についてです。

(Q)建設業を法人で営んでいます。設備を最新鋭のものにしましたが、古い同様の設備は使わないままにしています。この場合の税務処理はどうするのでしょうか。

(A)生産効率を上げるために最新設備にされたのですね。こうした場合には古い資産を廃棄等していないときであっても、その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められるものについては、その固定資産の帳簿価額からその処分見込価額を控除した残額をその事実が生じた日の属する事業年度の除却損として損金の額に算入することができます。

これを有姿除却(姿があっても除却したと同じ状態のもの)といいます。有姿除却は、資金の支出を伴わない経費であり節税の観点からも有効です。

しかし後の税務調査で対策が重要となります。ポイントは、その資産が将来使用される可能性がないということを立証できるかにあります。外形上その使用ができるかどうか不明なときは、トラブルがないような書類等を残すことが良いでしょう。具体的には、新規設備を導入した経緯、除却した場合の見積もり書などが有効かと思います。

また、類似のものとしてソフトウエアも同じ考え方をします。つまり物理的な除却、廃棄、消滅等がない場合であっても、今後事業の用に供しないことが明らかな事実があるときは、そのソフトウエアの帳簿価額から処分見込価額控除した残額をその事実が生じた日の属する事業年度の損金の額に算入することができます。