月別: 2021年6月

ギグワーカーと働き方~論議されていない消費税のインボイス化~

最近、新聞等でギグワーカーという聞き慣れないカタカナをよく目にします。ギグワーカーとは、インターネット経由で単発の仕事を引き受ける自営の働き手を言います。ライブハウスなどに居合わせたミュージシャンが一度限りで演奏に参加することを意味する音楽用語「gig(ギグ)」から由来しています。料理宅配サービスの配達員がその典型です。

そのギグワーカーは日本の現行法では自営業になります。したがって、雇用契約(非正規労働者を含む)のある人のように、最低賃金や社会保険(健康保険・厚生年金保険)労働保険(労災保険・雇用保険)などの適用はありません。

急速に増えているこの働き方のルール作りが遅れています。厚生労働省は、こうした働き方をしている人に対して労災保険の特別加入を決めるという方針です。しかし、保険料は自己負担です。

諸外国でも、こうした働き方の人が急増しています。スペインでは3月11日に、アプリを利用した食事宅配の配達員を従業員とみなすことを義務づけると決定しました。これにより、アプリを提供する会社側は配達員の社会保険料の支払いや、有給休暇の保障を義務付けられました。イギリスでも同様の最高裁判決があり、その結果、雇い主である会社は、コスト増により想定外の減益となりました。

会社側の主張は、配達員はアプリを介した注文を受けているだけで「自営業者」だと主張しましたが、最高裁判所は、配達員は会社の指示を順守する必要があり、「自立性は限定的」と判示しました。

「労働者」であるか「自営業者」であるかで大きな違いが出てくるのが消費税です。2013年(令和5年)10月からインボイス制度(適格請求書等保存方式)の実施に向け、本年10月1日からインボイス発行事業者の登録申請が始まろうとしています。

この制度が実施された場合、自由であるべき商取引において、発行される請求書や領収書に消費税の課税事業者としての登録番号のあるなしで、取引先相互間で大きな障害が発生する異常な事態が生じることになります。

つまり、これまでは取引先が小規模な免税事業者かどうかなど関係なしに取引ができましたが、インボイス制度が実施されると、消費税の申告税額を計算する際、免税事業者へ支払った費用に対する仕入税額控除が出来なくなります。いわゆる「2023年問題」です。

言い方を変えれば、現行制度は「労働者」であれば、賃金は消費税の「仕入れ税額控除」の対象外でしたが、ギグワーカーも含めて自営業者であればその対象になる、つまり納税する消費税額が少なくなる制度です。

2023年10月以降は、アプリを提供する会社側は、ギグワーカーに対して、増える消費税分の値下げか、消費税の課税事業者の選択をさせインボイス発行事業者にするかの選択を迫ってくることが想定されます。ギグワーカーにとっては悪魔のような制度変更です。

ある調査によると、ギグワーカーは300万人を超えているそうです。格差を拡大するギグワーカーを「労働者」とする制度変更をこの機会にわが国でもすべきときだと思います。

雨で収穫~梅雨入りで想う『魔法』の言葉~

先月15日に気象台から中国地方で梅雨入りの発表がありました。平年より22日も早い梅雨入りとのことです。

梅雨とは、春の終わりから夏の始まりにかけて、雨とくもりの多い季節や気象のことを言います。日本周辺の上空にある小笠原気団など4つの気団によって起こるため、韓国、台湾、中国南部の海沿いなど、日本と日本に近い一部の東アジアだけにしかない特有の気象です。そのため、欧米やオーストラリアといった他国では、雨季(rainy season)や乾季(dry season)という言葉はあっても、梅雨にぴったり当てはまる言葉はないそうです。

語源をひも解くと「ばいう」は中国由来とされ、「梅の実が熟する時期の雨だから」「長雨で黴(かび)の生えやすい時期から黴雨(ばいう)が転じた」という説がよく知られています。

雨に悩まされジメジメとした湿気の多いこの時期は、洗濯物も外に干せない日々が続き、妻も室内乾燥ではなかなか乾かないとぼやいています。また、梅雨時期に気圧の変化や寒暖差が大きくなることによって、頭痛や倦怠感などの体調不良を感じる方が多くなります。そんな人の症状を「低気圧不調」や「気象病」と言うそうです。

そんな雨の多い時期にふと思い出すのは、渋瀬さんという人の「名」語呂合わせです。既に鬼籍に入られた方ですが、長きにわたり中小企業経営の応援団長でした。その功績は多大でした。中小企業経営者に適時・的確なアドバイスをされるだけでなく、語呂合わせやキャッチ・コピーなどの多くのものを残されました。

そのひとつが『雨で収穫』です。話し相手やお客様の関心はこれでバッチリ!というものです。

あ=相づちを打つ(なぁ~るほど!そうですね)

め=目をみながら(つまり、相手に関心をもって)

で=でしゃばらずに、前傾姿勢で聴くに徹する(知っている話でも話の横取りは厳禁です)

し=知らないことは、早め早めに質問する

ゅ=夢のある話には大いに関心を示す(ヘェー!)

う=うなずく(大きく、小さくと変化をつけて)

か=確認する(別の言葉で○○という事ですね)

く=繰り返す(相手の言った言葉をそのまま)

話し上手は、決して饒舌な人を言っているのではありません。かつて「ガイヤの夜明け」というテレビ東京系列の番組でも取り上げられた、住宅1,000棟を売った「伝説の営業マン」でとして一躍有名になった田中さんは、饒舌の反対を地でいく人でした。私流に言えば「頷き名人」です。「話し上手は聞き上手」とよく言いますが、その通りです。

『雨で収穫』、つまり相手にどれだけ気持ちよく話をしてもらうかが肝要だと言うことの語呂合わせです。梅雨のこの時期、渋瀬さんを偲びながら実践させていただきます。