中央最低賃金審議会(厚生労働書の諮問機関)の小委員会は7月14日、2021年度の最低賃金(以下最賃とします)をすべての地域で28円引き上げる目安をまとめました。 この引き上げ額は02年度に時給で示す現在の方式になってから過去最大で、上げ幅は3.1%になりました。
目安どおりの改定になれば現行の全国加重平均902円から930円になります。最高額は東京都1,041円、最低額は秋田県、島根県、大分県、沖縄県などが820円となり、800円未満の県はなくなります。山口県は857円となります。国の審議会が目安を決め、これを基に各都道府県が実際の金額を決定して、10月頃に新たな最賃が適用されることになります。
山口県の857円の最賃で月労働時間を150時間(年1,800時間)とすると、月128,550円となります。この水準ではとても暮らしが成り立ちません。若い世代には、生活費だけでなく奨学金の返済をしている人も多く存在しています。また、子育て中のシングルマザーなどは、保育料などの出費もあります。
菅首相は5月14日の経済財政諮問会議で「より早期に全国平均1,000円をめざし、本年の引き上げに取り組むと」と述べました。また、6月18日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」では、「感染症下でも最賃を引き上げてきた諸外国の取組も参考にして、(中略)取り組む」としています。
先進諸国の最賃は、内閣府によるとフランスとイギリスが1,302円、ドイツが1,206円、アメリカが1,060円です。引き上げ幅はイギリスで昨年度が6.2%、本年度が2.2%、ドイツは昨年度1.7%、今年度1.6%の引き上げです。これに比べ日本は昨年度0.1%、今年度3.1%なので見劣りがします。
どの位の最賃が必要なのでしょうか。山口県労働組合総連合が産業関連表にもとづく経済効果分析をしたら、時給1,500円にすることが勤労者の家計を暖めるだけでなく、地域経済の好循環にきわめて大きな効果をもたらすことが実証されたとしています。この試算によると、引き上げの結果、県全体の賃金総額は3,729億円の増加、家計消費支出は2,557億円の増加、それに伴う生産誘発額は2,812億円、雇用誘発数は1.9万人になりました。また、労働者の所得増によって、社会保障税源と税収がそれぞれ484億円と353億円増え、中小企業支援策を思い切って改善する余裕が生まれてくるとしています。
最賃の引き上げは、小委員会でも「経済の好循環を実現させることや非正規雇用労働者の処遇改善が社会的に求められている」と述べています。しかし、今年度の最賃の引き上げでは、なかなか好循環までとはいきません。それどころか、中小企業に十分な支援や補償を行わないばかりか、撤回はしましたが金融機関などに飲食店への働きかけを求めるなど政府の施策は狂気の沙汰です。
せめて、ドイツ並みの全国一律1,200円の最賃を早期に実現してもらいたいものです。それが、拡がっている都市と地域の経済と賃金の格差の是正につながると考えます。