月別: 2021年10月

インボイス制度を廃止と消費税減税は不離一体~圧倒的大多数の税理士も反対を表明~

インボイス制度(適格請求書等保存方式)の実施(2023年10月1日開始)に先だってこの10月1日よりインボイス(適格請求書等)を発行できる事業者の登録申請が始まりました。

同時に、10月31日投開票となる総選挙も最終盤となり、消費税の減税の是非をめぐって与野党が論戦を戦わせています。与党である自民党・公明党以外の政党は、減税の期間をめぐって若干の温度差はあるにせよ消費税減税に前向きです。

与野党が逆転すれば、消費税減税が現実のものになります。そうなると、インボイス制度にも大きな節目になります。というのはインボイス制度導入の理由のひとつが複数税率に対応することにあるからです。消費税を5%に減税すれば、現在の8%と10%の複数税率は解消されます。したがって、インボイス制度導入の根拠が崩れます。

税理士業界も大きく影響されるこの制度について否定的です。日本税理士会連合会・日本税理士政治連盟は、令和4年度の税制改革に関する重要建議事項のトップに、インボイス制度の見直しとその導入時期を延期することをあげています。その理由は、事務負担と市場に与える影響を考慮してのことです。

業界紙である「税理士新聞」の9月15日号では、インボイス導入に反対する意見がなんと88%にも上っていました。そのコメント欄のなかで的を射ているものがありましたので紹介します。『インボイス制度の実施には絶対反対である。消費税はもともと憲法が保障する負担公平の原則(憲法14条)に反する最も民主主義に反する税制である。インボイス制度の施行は、免税事業者を経済取引を通じて通常の活動から締め出す効果を持っている。したがって中小零細業者は免税を放棄するか廃業するかの選択に迫られることになる。解決策は一つ、消費税そのものを廃止すること以外にない。そうしなければ税理士業務も、もはや継続できなくなるだろう。納税者は主権者である。税理士も主権者の一人である。納税者と手を携えて、最悪の大衆課税である消費税をなくすために立ち上がろうではないか。』との記載、私もまったく同感です。

財務省は、年間課税売上高1,000万円以下のフリーランスや零細個人事業者、法人の免税事業者のうち160万者・社が課税事業者を選択するとみており、その増収額は約2,500億円であるという試算を公開しています。しかし、それらの人たちが意図的に消費税の負担を免れている問題児なのでしょうか。

答えはもちろん否です。課税事業者の選択を迫られる事業者は、個人タクシーや赤帽などの運送事業者、出版・生保・損保の代理店、建設業の一人親方、外注化された社員、シルバー人材センターで働く人、数多くの農家など多岐にわたります。それらの人たちが、インボイス制度の問題点だけでなくその制度さえ知らされないまま、否が応でも課税事業者の選択か廃業かを迫られることになるのは明らかです。

今回の総選挙で消費税の減税を実現し、インボイス制度の廃止させるための投票行動を起こしていきましょう。

暴力団に対する課税について考える~税務調査を強化すべきでは?~

8月24日、福岡県北九州市に本部を置く特定危険指定暴力団「工藤会」のトップ総裁の野村悟被告(74)に死刑判決が言い渡されました。福岡県で起きた4つの暴力団関係者でない一般市民襲撃事件で殺人などの罪に問われていました。

既にさまざまな取締りの強化で、暴力団やその構成員は銀行口座が作れない、金融機関からの融資が受けられない、スマホを契約できない、車を購入できない、賃貸住宅に入居できないなど生活面での締付けが厳しくなっています。しかし、その締付けの網の目を潜っている実態があるのも事実です。警察などがなすべき対策や課題もまだまだ多いのが現状です。

野村被告は判決を不服として控訴しました。直接的な証拠はなくとも組内での絶対的地位を根拠にトップの責任を問い、極刑に処した今回の判決を賞賛する声がある一方、推論と推認を重ねる手法についての危険性を指摘する声もあります。

この死刑判決に先んじて今年2月16日に、最高裁第3小法廷(宮崎裕子裁判長)は、工藤会の上納金を巡り、約3億2千万円を脱税したとして所得税法違反罪に問われた会トップの総裁、野村被告の上告を棄却する決定をしました。懲役3年の実刑、罰金8千万円とした一、二審判決が確定しました。2010年から2014年の5年間、不動産所得については申告していたものの、被告が上納金のうち個人的に収納していた部分の約8億を申告していませんでした。

一審の福岡地裁は、口座の記録や組関係者の証言に基づき、工藤会が「みかじめ料」として建設業者などから集めた上納金が、一定の比率で野村被告に分配され個人的な支出(被告の交際相手のマンション購入費用や親族の生活費・養育費等)に充てられていました。さらに、被告の個人資産の増加状況とも符合していました。それらを総合判断しての判決でした。二審の福岡高裁もこれを支持していました。

これらの所得について判決は、一時所得や事業所得に該当するものではなく、雑所得に該当し、さらにその所得に対する必要経費はないと判決しました。この判決について支持する声がある一方で課税の妥当性について異論もあるようです。

日本弁護士連合会は、「暴力団の上納金に対する課税の適正な実施を求める意見書」を取りまとめ、2017年2月17日付けで内閣総理大臣、法務大臣、財務大臣、国税庁長官及び警察庁長官宛てに提出しました。意見書の趣旨は、「課税に関する関係機関に対し、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律に規定する暴力団の代表者(組長、総長、会長、理事長等と称する暴力団の首領)に支払われる上納金の課税のために、法律に基づき、質問検査権等を行使し、その実態を把握した上で、その結果に基づき、適正な課税措置を講じることを求める。」という内容です。

つまり、暴力団についての税務調査を厳格にすることを示唆しています。しかし、税務署はこの分野には手が及んでいないのが実態です。この事件を受け、警察と税務署がチームを組んで税務調査を積極的に行い、その結果を公表することが求められていると思います。

最近耳にするSDGs~誰一人取り残さない社会の実現をめざして~

最近よく耳にする言葉にSDGsがあります。

SDGsとは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の頭文字をとった言葉です。小泉前環境大臣などがスーツにカラフルな丸いバッチをつけていますが、あれがSDGsバッジです。

異常気象が世界各地に頻発するなど、私たちの地球が人類生存の危機に陥っているときに、先進国、途上国を問わず、全世界が直面する問題の解決を共有しました。2015年の国連総会において全会一致で採択されました。2030年まで17の目標を掲げています。その目標は、次の5つのPのカテゴリーに分類されています。

人間(People)①貧困をなくそう、②飢餓をゼロに、③すべての人に健康と福祉を、④質の高い教育をみんなに、⑤ジェンダー平等を実現しよう、⑥安全な水とトイレを世界中に

繁栄(Prosperity)⑦エネルギーをみんなにそしてクリーンに、⑧働きがいも経済成長も、⑨産業と技術革新の基盤をつくろう、⑩人や国の不平等をなくそう、⑪住み続けられるまちづくりを、⑫つくる責任、つかう責任

地球(Planet)⑬気候変動に具体的な対策を、⑭海の豊かさを守ろう、⑮陸の豊かさを守ろう

平和(Peace)⑯平和と公正をすべての人に

パートナーシップ(Partnership)⑰パートナーシップで目標を達成しよう

SDGsは、個々別々であった「経済、社会、環境」の3つの側面の取り組みを統合する目標になっています。これまで私たちのさまざまな分野の運動や取り組みが集約されたものといえます。そして「誰一人取り残さない」社会の実現をスローガンに、「世界を持続可能かつ強くしなやかな道筋に移行させる」ことをめざしています。

全会一致を可能にするために不十分な側面もあります。例えば⑦では、クリーンエネルギーの提示があっても原子力発電問題については触れられていません。また⑯では、核兵器廃絶の課題については触れられていません。

この採択を受けて日本でも2016年5月に、SDGs推進本部が総理大臣のもとに、全閣僚を構成員として設置され、同年の16年12月より実施指針が決定されました。政府の重点施策として3本の柱と8つの優先課題が掲げられましたが、決して十分な取り組みとはいえないのが現状です。

しかし、民間レベルではさまざまな取り組みがされています。例えば、2020年4月からコンビニ店などでのレジ袋の有償化が決まりました。使い捨てプラスチックの削減をめざしたものですが、実際に効果を発揮しています。

日本人の国民性からして、自分自身が納得したことについてはきちっと実行します。コロナ禍でのマスクの着用などがその例です。政府がきっちりと方向性を示せば、SDGsはこの国に定着すると思います。

宇宙船地球号の乗組員として、この課題に立ち向かわなければなりません。

心ある政治家に提言する4つの税制改革~格差是正と庶民にやさしい税制をめざして~

日本の税制の大きな転換点になった消費税導入(1989年)から32年間の特徴は次の3点に要約されます。

①法人税・所得税・相続税の最高税率は大幅に引き下げられました。その結果それぞれの税収は大きく落ち込みました。同時にその不足分を補うように新規国債の発行は増えました。

②消費税は度重なる税率の引き上げが行われ、各種の零細事業者を配慮する制度の見直しがはかられました。消費税は補完税から基幹税へと姿を変え、いつのまにか税収のトップの地位を占めるようになりました。

③その結果、大企業と富裕層はその果実を受けましたが、その一方で多くの庶民と中小零細企業は増税にあえいでいます。つまり、個人・法人ともに、所得格差はこれまでにないほど拡大しています。

ところで、租税のあり方に「応能負担の原則」があります。「応能負担」とは、負担能力のない者には税を少ない負担率にし、所得の高い者にはより高い負担率で税を課すことによって、所得を再配分する機能を与えるという考え方です。

具体的には(1)間接税ではなく直接税(所得課税)を中心にする。(2)各種の所得を総合化して、所得が多くなるに応じて高い税率(超過累進税率)を課す。(3)生活費は非課税とする。(4)勤労所得(給与所得や事業所得など)には軽い税金を、不労所得(株式の配当や譲渡など)には重い税金を課す、などを言います。

改革の4つの提案は、消費課税、法人課税、所得課税、資産課税のそれぞれの分野です。

まず、消費課税は、逆進性(所得の低い人ほどその負担率が高い)の強い消費税を当面5%に減税し、将来は廃止することです。その代替財源の一部として、新しい形の物品税(大企業のメーカー、例えば自動車産業などに出荷の時点で一定税率を課す)を創設してはどうでしょうか。さらに、免税事業者だけでなく課税事業者も大混乱に陥るインボイス制度への移行をやめることが喫緊の課題です。

次に、法人課税は、企業規模が大きくなればなるほど税率が低くなる仕組み(租税措置法などが原因です)を改めなければなりません。また、課税の仕組みを比例税率から所得税のように超過累進税率に変えることが必要です。

そして、個人課税では、消費税導入後に下げられた超過累進課税を強化することです。健康保険料に対する負担率を上限なしにすることも課題です。さらに、金融資産(株式の譲渡や配当など)を総合課税にすることです。不動産の譲渡も総合課税にすることも検討が必要です。

最後に、資産課税は、相続税の累進課税を強化することが大事です。併せて、超富裕層(具体的には、金融資産を5億円以上所有している個人)から低率でも良いので課税する仕組みを創設という発想はどうでしょうか。

総選挙の日程が10月31日で決まりました。それぞれの政治家(所属政党は問いません)が信念を持ってその世界に入られたのだろうと思います。日本は異常なまでの格差社会になっています。

政治家の皆さんには初心を忘れず、国民目線でこの格差社会を解決するための税制のあり方に目を向けてもらえればと願います。市井の税理士からのメッセージです。