岸田文雄首相は終戦記念日の前日の14日、唐突に記者会見をし、9月の自民党総裁選に出馬しない意向を明らかにしました。マスコミは自民党の派閥裏金事件を受けての退陣と報じています。早くも二桁の議員が次期総裁に「我こそは」と立候補を表明しています。
しかし、岸田首相はその任期内にせめて国民の多くがその真相を知りたがっている、統一教会問題や自民党の裏金事件を彼のお得意の言葉である「丁寧な説明」をしてからその身を引いてほしいものですが、その意思も気迫も今の彼にあるとは思えません。
さて、厚生労働省が7月に発表した2023年度の国民基礎調査によると、22年の1世帯あたりの平均所得金額は524万円と前年比3.9%減少し、21年の3.3%減に続くマイナスでした。相対度数分布(ある階級の度数における全体に対する割合を表すもの)では、平均所得金額以下の世帯数が62.2%で、300万円未満の層が36%を占めます。つまり、富が「富裕層」に偏在していることを示しています。また、23年7月時点での生活意識への問いでは「苦しい」の回答が59.6%と22年の51.3%を大幅に上昇しています。
一方、野村総合研究所が23年に発表した21年を対象にした推計によると、純金融資産(保有している預貯金や株式、債券などの金融資産の総額から負債を差し引いた金額)が1億円以上の「富裕層」、5億円以上の「超富裕層」は合計148.5万世帯で、全世帯の2%台を占めています。日本証券業協会が23年に発表した調査によると、日本の総人口に占める個人株主の割合は22年度で11.9%に過ぎず、年齢階層別では、60歳以上の合計が4割強となっています。生活資金にゆとりのある一部の人が投資で恩恵を受けています。
政府は新ニーサを24年から始めました。比較的若い中間層に老後資金を意識させる仕組みです。この制度は、非課税期間が無期限なことから、長期運用に適しています。一般的に運用期間は長期になるほどリターンが安定するとされています。
岸田首相は、前回の総裁選挙で新しい資本主義と言う概念を打ち出し、金融所得課税を表明していましたが、株価の低迷で腰砕けになっていました。
もとより非課税枠の増大と金融所得課税はワンセットと言われていました。新ニーサが創設されたことで、金融所得や金融資産(相続税における金融資産に対する課税)に対する課税強化の土俵ができあがりました。
アベノミクスで様々な部面で格差が広がりました。労働市場における正規雇用と非正規雇用、都市と地方、基地がどんどん拡大している沖縄、教育の質、高齢者とひとり親世帯の相対的貧困率などです。
3分の1の世帯が年収300万円未満で生活し、6割の国民が生活実感を「苦しい」と答えています。憲法第25条は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」としています。次期総理は、経済格差を真正面から受け止め、すべての国民が平和で豊かな暮らしを享受できるようにする責務があると思います。