安倍政権がアベノミクスと並ぶ看板政策としている地方創生。全国各地でさまざまな地方創生策が打ち出されていますが、そのほとんどは失敗に終わっていま す。鳴り物入りで進める地方創生策はなぜ、うまくいかないのでしょうか。大きく分けて3つの原因が足を引っ張っているように感じます。
(1) 自治体の個性を消す横並び意識
その第1が自治体の横並び意識です。全国の都道府県、市区町村が急激に進む人口減少と高齢化の中、地方創生総合戦略策定しています。それぞれの地域をどうやって発展させていくか、各自治体が知恵を絞っているわけですが、盛り込まれた内容はIターンの受け入れ、特産品のブランド化、訪日外国人観光客の受け入れなどどこかで聞いたことがあるものばかり。ところどころにうまいキャッチフレーズが入っていても、目新しい中身は見当たりません。
総務省のホームページに掲載されたふるさと納税の返礼品も同じです。どの自治体の返礼品もお得感のある特産品がずらりと並びます。肉や水産物など目玉となる返礼品は違っても、特産品で釣り、寄付金を集めようとする発想は共通しています。横並び意識が個性発揮の邪魔をしていることは間違いないでしょう。
移住者の受け入れで先進地とされる島根県海士町、昭和30年代の商店街を再現して観光地となった大分県豊後高田市は、地域の歴史や自然、風土を地元の人たちが最大限に生かして地方創生策練り上げました。地道な努力を忘れ、どこかの成功例と似た施策を打ち出したところで、成功につながるはずもないのです。
施設建設から商品開発までありとあらゆる計画をコンサルタント会社に外注する自治体の姿勢も、この傾向を助長しています。オリジナリティに欠けたパクリの地方創生策が通用しないことを肝に銘じなければならないでしょう。
(2) 学ぶべきは過去の失敗例
第2の問題点は過去の事例から学んでいないことです。といっても政府やコンサルタント会社が宣伝している各地の成功例を学べといっているのではありません。学ぶべきなのは失敗例なのです。
青森県青森市は中心部に都市機能を集約するコンパクトシティ構想を掲げ、JR青森駅前に2001年、商業施設や公共施設が入った再開発ビルを開業しました。一時はコンパクトシティの先進地として注目を浴びましたが、客足が伸びずに2008年、事実上の債権放棄に陥っています。
中心市街地の再開発を望むなら、こうした失敗例を徹底的に研究しなければ、同じ過ちを犯すでしょう。失敗例を精査し、その原因を自分たちの計画に当てはめて考えれば、問題点が目に見えてくるはずです。
地方創生はどこかが成功すれば、別のどこかが影響を受けて廃れていく椅子取りゲームのようなものです。勝者はほんのひと握りしかいません。「予測が外れた」「状況が変わった」などと後で言い訳せずに済むよう失敗例から徹底的に学ぶ必要があるのです。
(3) 地域に不可決なリーダー育成
3つ目は地域を引っ張る民間のリーダーを育てることです。
長野県小布施町を観光の町として活性化させ立役者は、セーラ・マリ・カミングスさんという米国人女性でした。徳島県上勝町で木の葉を和食の飾りとして販売する葉っぱビジネスを成功させたのは、徳島県徳島市出身の農協職員横石知二さんです。
最終的に事業を動かし、地域に元気を与えるのは地元の人たちにほかなりません。自治体がいくら補助金を積んだところで、補助金が打ち切られればその効果は失われます。
カミングスさんや横石さんは自ら率先して地方創生に取り組み、自治体が後からついていきました。
自治体主導で地方創生策を進めるのなら、カミングスさんらに代わりうる地域のリーダーを同時に育てなければなりません。どれだけ立派な施設を自治体が整備しても、地元の人たちが積極的に動かない限り、その計画は失敗します。
世の中を変えるのは「よそ者、若者、変わり者」だといわれます。そういう人物を地域で発見するか、呼び込んで、リーダーに育てることが本当に大切なのです。多くの自治体はこの点を見落としているように感じてなりません。
※政くらべ 2016年1月9日 より引用