最近、新聞等でギグワーカーという聞き慣れないカタカナをよく目にします。ギグワーカーとは、インターネット経由で単発の仕事を引き受ける自営の働き手を言います。ライブハウスなどに居合わせたミュージシャンが一度限りで演奏に参加することを意味する音楽用語「gig(ギグ)」から由来しています。料理宅配サービスの配達員がその典型です。
そのギグワーカーは日本の現行法では自営業になります。したがって、雇用契約(非正規労働者を含む)のある人のように、最低賃金や社会保険(健康保険・厚生年金保険)労働保険(労災保険・雇用保険)などの適用はありません。
急速に増えているこの働き方のルール作りが遅れています。厚生労働省は、こうした働き方をしている人に対して労災保険の特別加入を決めるという方針です。しかし、保険料は自己負担です。
諸外国でも、こうした働き方の人が急増しています。スペインでは3月11日に、アプリを利用した食事宅配の配達員を従業員とみなすことを義務づけると決定しました。これにより、アプリを提供する会社側は配達員の社会保険料の支払いや、有給休暇の保障を義務付けられました。イギリスでも同様の最高裁判決があり、その結果、雇い主である会社は、コスト増により想定外の減益となりました。
会社側の主張は、配達員はアプリを介した注文を受けているだけで「自営業者」だと主張しましたが、最高裁判所は、配達員は会社の指示を順守する必要があり、「自立性は限定的」と判示しました。
「労働者」であるか「自営業者」であるかで大きな違いが出てくるのが消費税です。2013年(令和5年)10月からインボイス制度(適格請求書等保存方式)の実施に向け、本年10月1日からインボイス発行事業者の登録申請が始まろうとしています。
この制度が実施された場合、自由であるべき商取引において、発行される請求書や領収書に消費税の課税事業者としての登録番号のあるなしで、取引先相互間で大きな障害が発生する異常な事態が生じることになります。
つまり、これまでは取引先が小規模な免税事業者かどうかなど関係なしに取引ができましたが、インボイス制度が実施されると、消費税の申告税額を計算する際、免税事業者へ支払った費用に対する仕入税額控除が出来なくなります。いわゆる「2023年問題」です。
言い方を変えれば、現行制度は「労働者」であれば、賃金は消費税の「仕入れ税額控除」の対象外でしたが、ギグワーカーも含めて自営業者であればその対象になる、つまり納税する消費税額が少なくなる制度です。
2023年10月以降は、アプリを提供する会社側は、ギグワーカーに対して、増える消費税分の値下げか、消費税の課税事業者の選択をさせインボイス発行事業者にするかの選択を迫ってくることが想定されます。ギグワーカーにとっては悪魔のような制度変更です。
ある調査によると、ギグワーカーは300万人を超えているそうです。格差を拡大するギグワーカーを「労働者」とする制度変更をこの機会にわが国でもすべきときだと思います。