1980年代にイギリスのサッチャー政権とアメリカのレーガン政権が法人税減税に舵を切って以来、世界的な法人税率の引き下げ競争がされてきました。この際限のない引き下げ競争は結果として法人税収を引き下げ、自らの首を絞める「チキンレース」を興じてきました。「チキンレース」とは「相手を屈服させようとして互いに強引な手段をとりあう争い」と言う意味です。これは和製英語で、英語では「チキンゲーム」と言います。日米欧などが失った可能性がある税金は過去10年だけでも170兆円との試算がなされています。
経済協力開発機構(OECD)は、10月8日、多国籍企業の税逃れを防ぐための新たな国際課税ルールに関する交渉会議を開き、136カ国・地域が最終合意に達しました。合意に達しなかったケニア、パキスタン、スリランカ、ナイジェリアの4カ国については引き続き協議を進めます。
2012年に本格的な国際課税の強化の協議が始められて約9年越しでまとまりました。これは約100年ぶりのルール改正です。鈴木財務大臣は、新たな国際課税のルールで最終合意に達したことについて「100年来、続いてきた国際課税原則の見直しが、グローバルな枠組みのもとで合意されたことを高く評価する。今後、多国間条約の策定・批准や、国内法の改正に向け、引き続き各国と協調しながら取り組みたい」という談話を発表しました。
この「国際課税の大改革」は2つの柱からなっています。ひとつは「デジタル課税」、もうひとつが「法人税の最低税率」です。
デジタル課税とは、これまで国際課税の大原則として、人や施設など物理的な拠点のある国のみが課税できるとされていたものの大転換です。近年急速に成長してきたGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などに代表されるIT企業などは、インターネットを通じて世界中にサービスを提供して利益を上げる一方で、物理的拠点は法人税率の低い国のみに設置して税負担を低く抑える抜け穴がありました。新ルールでは、売上高が200億ユーロ(約2.6兆円)を超え、利益率が10%を超える企業が対象で、売上高の10%を超える利益の25%について、売上高に応じて各国・地域に配分するというものです。
もうひとつの柱が、法人最低税率の導入です。これは、一定規模以上のすべての多国籍企業に対し、最低15%の実質税負担率を課す仕組みです。単に法人税の最低税率を15%にするというものではなく、法定税率を15%以上としている国でも、税制の抜け穴や優遇措置を利用して実質税負担率を15%未満に下げている仕組みを許さない仕組みです。今回の新ルールでは、最低税率を下回る国に拠点がある企業は、親会社のある国に最低税率との差額を納めなければならなくなります。
「この合意は21世紀の税制革命だ」とフランスのルメール経済・財務相が語っています。また、アメリカのイエレン財務長官は「有害な『底辺の競争』に終止符を打つ国際ルールをすべての主要国が支持した」と歓迎声明を出しています。
完全だとは思いませんが、これを前に進めることが求められているのだろうと思います。