7月20日、アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾス氏が、自らが設立した宇宙開発企業のロケットで約10分間の宇宙旅行をしました。多くのマスコミが取り上げ、「新しい時代の幕開け」のごとく報道をしました。
奇しくもこの日は今から52年前の1969年に人類が初めて月面着陸をした日でした。地球ではこの快挙のTV中継を6億人が見ました。アポロ11号のアームストロング船長は「これは人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」と述べました。
一方、ベゾス氏は「アマゾンの全従業員、すべての顧客に感謝したい。あなた方が今回の費用のすべてを払ってくれたのだから」と、大はしゃぎでした。
私も、アマゾンの顧客のひとりです。確かに、アマゾンが私たちの生活様式を格段に変えたことは論を待たないでしょう。大きな本屋さんが近くにないので注文して取り寄せになる専門書も翌日に手元に届きます。中古の書籍も豊富に在庫があります。近くのスーパーでは売っていない私が愛飲しているフランス産炭酸水の「ペリエ」も手に入ります。かさの張る品物も自宅まで宅配業者が注文した翌日に届けてくれます。
そんなアマゾンは超巨大化しています。売上高は、2016年に1,360億ドルであったものが4年後の2020年には2.8倍増の3,861億ドルに、営業利益は同期間で42億ドルが229億ドルと5.5倍に、売上高対営業利益率も3.1%から5.9%と1.9倍改善されています。
従業員の数も34.1万人から129.8万人と3.8倍になっています。アマゾンはGAFA(ガーファ=グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれるアメリカの主要IT企業の一角を形成していますが、従業員の数は他の3社の合計より多くなっています。ちなみにグーグルは13.5万人、アップル12.3万人、フェイスブック5.9万人です。
会社だけではありません。個人資産も膨れあがっています。アメリカの大富豪を調べている政策研究所によると、ベゾス氏の資産は7月時点で2,124億ドル(日本円で約23兆円)です。コロナ危機が深刻化した2020年3月から1.9倍も増やしました。10億ドル以上の資産を持つアメリカの大富豪713人の資産は同じ期間で1.6倍に増え、総額4.7兆円とドイツのGDP(国内総生産)を上回っています。
国際NGOのオックスファムは、「億万長者は不公平な税制と脆弱な労働者保護で資産を増やしている」と指摘しています。そして、「連邦所得税をほとんど払わないくせに自らの宇宙旅行には75億ドルも費やせる」とベゾス氏を批判し、富裕層への課税強化で学校や病院を造るべきだとしています。
また民主党の議員などからも「彼が10分間の宇宙旅行を楽しんでいる一方でアマゾンの倉庫労働者は10時間立ちっぱなしで働く」「看護師よりも低い税金しか払わず、宇宙旅行を競い合っている」「経済的正義のある社会なら、ホームレスや飢餓をなくすために彼に1,000億ドルの地球帰還税を課すだろう。それでも彼はまだ世界で8番目の富豪だ」などの鋭い指摘がされています。
課税の適正化は、アメリカだけでなく日本の歪んだ二極化社会でも焦眉の課題です。