前回に引き続きドイツでの訪問記を書きたいと思います。ちょうどクリスマスシーズンということもあってか、ベルリンの壁崩壊の前の西ドイツの首都であったボンの街もご多分に漏れずドイツらしいクリスマスマーケットで賑わっていました。歴史を感じるボンの市街をぐるりと一周回ることにしました。近くの教会、生誕地が彼の地であるベートーベンの像、そして、かの資本論(2013年に「共産党宣言」とともにユネスコの世界記憶遺産に登録された。)の執筆者であるカール・マルクスが学んでいたというボン大学(娘の出身大学の提携校でもありました。)の散策をすることになりました。大学へは立ち入り自由で、学生がくつろいでいる喫茶室、図書館などものぞきました。荘厳という形容詞が似合うキャンパスで、大学そのものが博物館のようになっています。
少し歩いたところにボン税務署があります。いよいよ今日のメーンイベントです。受付は全面ガラス張りで、受付の職員とはガラス越しで話すようになっています。もちろん写真撮影は禁止です。1階の受付を通り過ごして上の階へ行きました。1人の職員に対し1部屋のオフィスとなっているのは娘が勤めるドイツ国際平和村の事務所と同じです。3階へ上がろうとしたとき、50歳前後と思える男性職員が廊下を歩いていて娘に声をかけてきてくれました。
「何か用ですか。」娘は「私の父は日本の税理士で見学させてもらっています。」と説明したら、いきなり持っていたチョコレートとドーナツを私たちにくれて「私の部屋で話しをしましょう。」と誘われ、さらに上の階の彼の部屋に案内されました。
彼の仕事は、大きな法人の税務調査を6人1組でやっていると説明してくれました。驚くことに、ジーンズにカジュアルなシャツ姿です。また、ラジオを聞きながら仕事をしています。日本の税務署員の職場環境や仕事ぶりとはかなり異質です。娘の通訳で分かったことは、彼の仕事(法人税の税務調査)で最高の申告漏れの発見は5,000万ユーロ(1ユーロ130円で換算すると日本円にして65億円)、びっくりするような金額です。また、ボン税務署での最高額は、7億ユーロ(同じく910億円)の申告漏れだったようです。そんなに大きくない税務署でも、追徴税額の多さには驚きました。
ドイツでの法人税の基本税率は15%ですが、お隣の国のルクセンブルクに本店を移転させれば1%の課税で済む仕組みになっているそうです。ドイツでも日本や米国、英国などの先進国と同じくタックス・ヘイブンによる課税逃れに随分と頭を抱えている彼は饒舌?に話しています。娘曰く、「日常会話ならそれなりの通訳ができるけど、税金などの専門用語はよく分からないから、彼がそこらあたりを配慮してわかりやすい言葉に置き換えてくれて、メモ帳に単語を書いてくれたので助かった」と話してくれました。
彼は普段ラフなスタイルで仕事をしているそうなのですが、上司と週に1回の打合せと税務調査の1日目だけはネクタイをすると言ってロッカーからショッキング・ピンクのネクタイを見せて貰ったときはあまりの「ド派手さ」にびっくりしました。
また、個人課税のことは自分にはよく解らないので良い人を紹介しようとすぐに電話をしてくれました。紹介された方は個人課税のトップの人だったのですが、12月中旬ですごく忙しくて手が放せないので対応できないとの事でした。
クリスマスにみんなが好んで食べる焼き菓子のシュトレンをもらい記念写真も気楽に撮ってもらえました。娘が言うには、とかく税務署は愛想が悪いと事前に聞いていたので、彼と話せたのは幸運だったみたいです。
1階に降りて受付の女性職員に「税金に関するパンフレットを貰えませんか」と言うと、受付の責任者の人が地下室まで行って二種類のパンフレットを渡してくれました。この分厚く、豪華なパンフレットを娘に「後日訳してもらいたい」とお願いすると、ざっと見ただけで、専門用語とドイツの税制が書いてあって、まるで分からないらしく、「時間があればね」と上手くかわされました。
現職のドイツの税務職員と生で話ができたという満足感、高揚感を癒しに、駅前のパン屋さんでココアを呑み、マクドナルドでハンバーガーとコーヒーを注文しました。ココアとコーヒーは19%の税率、ハンバーガーは食料品なので軽減税率適用なのか7%の税率、また、同じ食べ物でも、カフェではテイクアウトでなく店内で食べると30セント(約40円)高くなるという仕組みになっていました。
日本の消費税が2019年から8%から10%にあがる際に、食料品が8%の軽減税率の適用になれば、それは、今後の消費税のさらなる増税の狼煙(のろし)になるのではないか危惧しています。それは、ドイツでは標準税率19%と軽減税率7%の差が12%あるのに対して、日本の場合は僅か2%しかないことです。また、インボイスの仕組みも定着させなければなりません。納税義務者や税理士事務所に過大な負担がかかりますし、免税業者も課税業者の選択をしなければ、経済の仕組みから抹殺される危惧があります。
私見ですが、消費税は増税をやめるべきです。反対に、5%から8%に消費税が増税して以来、消費者の購買意欲は削がれています。この際、消費税を元の5%に戻すべきです。さらに、先祖返りをして、消費税は廃止し、「個別物品税」に戻し、「基幹税」から「補完税」にすべきだと思います。消費税の逆進性をなくすには、その道しかありません。
あくまで、租税の基本は「累進課税」です。ICTやAI技術が進化すればするほど、「個別物品」の把握と税率の改定は容易にできるはずですし、末端の業者が価格を転嫁できないことはなくなります。サービスへの課税も財務省の主税局が知恵を絞ればできるのではないかと思います。
そして、課税庁にあっては、「滞納」ということが極めて少なくなるメリットが出てきます。高級車に乗りたい人は、25%の税率でも購入するでしょうし、農業で使う軽トラックが0%ならば、農業の自給率も上がるかもしれません。