マイナンバーカードの強要の危うさ~普及が進まないのは政府に対する信頼感のなさか?~

管政権はデジタル社会の推進を旗印として、デジタル庁の創設を軸に公的な申請のデジタル化を推し進めようと躍起になっています。

その中で、マイナンバー制度(以下制度とします)を「デジタル社会のパスポート」と位置づけて、マイナンバーカード(以下カードとします)に銀行口座をはじめ、健康保険証や運転免許証などを無理やり紐付けしてカードをすべての国民に持たせることで、国民のプライバシーを脅かし、監視型社会の拡大をしようとしています。その狙いを紐解いてみます。

導入当初は、コロナ禍で延期になった東京オリンピックの競技会場での本人確認をカードでするといったことも検討されていましたが、その普及は一向に進んでいません。現在の普及率は全国で22%しかありません。この普及率を2022年度末までに100%に引き上げる目標を立て、ありとあらゆる手を考えています。

まずは、銀行口座との紐付けです。1人当たり10万円の特定定額給付金を支給する際に、カードを使ったオンライン申請でシステムダウンがおき、その事務にあたった市町村が大混乱になりました。自民党などはこの不備を逆手にとって、給付金の口座と制度とを紐付けしようとしています。また平井デジタル相は、義務化と罰則をセットにするという見解を示しています。もとより、制度は住民基本台帳を基礎としていますから、一番に手をさしのべなくてはならないホームレスのような住民票のない弱者には手が届かない仕組みになっていることも問題です。

カードは2021年3月から本人が希望すれば健康保険証の機能を上乗せするような制度設計をしています。病院や診療所、調剤薬局で顔認証付きのカードリーダーにかざすと本人確認ができ、薬の利用歴を本人や医療機関が閲覧したり、医療費情報を確定申告でも活用できるようです。その機器は医療機関に無償で配布しますが、現時点での申し込みは2割に満たない状況です。笛吹けども踊らぬ状況なので、将来は保険証の交付をやめることで、カード利用を促進する戦略です。

運転免許証もカード普及の対象です。運転免許証は国民の3人に2人が持っているいわば顔写真付きの身分証明書です。法律ではカードの取得は任意ですが、警察庁が検討しているようにカードのなかに免許証情報が入るとなれば、事実上、運転免許をとりたければカードを取得せざるを得ません。デジタル化と運転免許証の連結という意味で言えば、既に今の免許証はICカード化されています。仮に免許証がカードと一体化されれば、免許の有効期限、眼鏡等の条件が表から消えてしまいます。交通取締りに当たる現場のためにカードリーダーが必要になりますし、セキュリティー対策も必要になります。

かなりの予算をかけてCMもしているマイナポイントの普及も9月から開始していますが、利用見込みの4,000万人に対して、申込者は約500万にも満たないという不人気です。理由は「複雑で面倒」が4割、「セキュリティー面で不安」が3割となっています。面倒な手続きまでしてやるほど劇的なメリットがないと言えます。

確かに行政のデジタル化は国の存亡をかけた大事業です。しかし悲しいかな、国民の政府に対する信頼感は著しく低下しています。例えば「モリ・カケ・さくら」問題での行政文書の改ざん、廃棄、虚偽答弁などが顕著にそれを物語っています。国民からの信頼無くしてデジタル化は遅々と進まないでしょう。

さらに、監視社会のさらなる強化も危惧されます。カードが義務化されれば、例えば警察官に職務質問をされたら、カードをかざしただけで、犯罪歴だけでなく健康状態などの個人情報が丸裸になります。韓国のような住民登録番号が流出して悪用されることも想定しなくてはなりません。もちろん、カード所有者の「カード閲覧履歴をいつでも見られる権利」の確保も重要な課題です。カードに個人番号を書かない工夫やハッキングに対する対応策も講ずるべきです。

先進国のなかでかなり遅れている行政のデジタル化を進める手段として不可欠なのは、「急がば回れ」の諺のごとく国民の理解と協力を得ながら国民目線の制度を進めることが必要です。