「日本は、大企業が少なく、中堅企業よりは小規模事業者が多いので、生産性が低迷する構造にある。」「小さい企業は経営者の質が低いため、生産性が低く、高い賃金が払えなかったり、成長もできない企業が少なくない。こういう企業が増えてしまう結果、国全体の生産性が低下する。」「中小企業は、無駄にたくさんの人を雇うので、現在のような労働生産性の向上を求められる時代では、特に小規模事業者は邪魔な存在でしかない。」
こうした発言をしているのは、政府の成長戦略会議のメンバーのデービット・アトキンソン氏です。氏は、米国金融大手ゴールドマン・サックスを経て、小西美術工藝社の社長です。菅総理の肝いりでこのメンバーに入りました。
氏の発言は日本の中小企業がとりわけ多いとの認識ですが、それは違います。EU28カ国では、中小企業は企業数の99.8%、従業員総数の66.6%、付加価値額の56.4%を占めています。わが国もそれに類似し、企業数の99.7%、従業者総数の68.8%、付加価値額の52.9%を中小企業が占めています。(中小企業家しんぶん2020年12月15日号参照)このように中小企業は、言うまでもなく日本経済の根幹であり、経済や暮らしを支え牽引する存在です。氏は、意図的に数字をすり替えています。
政府の中小企業憲章の基本理念には、「中小企業は、経済やくらしを支え、牽引する」「創意工夫を凝らし、技術を磨き、雇用の大部分を支え、くらしに潤いを与える」「意思決定の素早さや行動力、個性豊かな得意分野や多種多様な可能性を持つ」「経営者は、企業家精神に溢れ、自らの才覚で事業を営みながら、家族のみならず従業員を守る責任を果たす」「中小企業は、経営者と従業員が一体感を発揮し、一人ひとりの努力が目に見える形で成果に結びつき易い場である」「中小企業は、社会の主役として地域社会と住民生活に貢献し、伝統技能や文化の継承に重要な役割を果たす」「小規模企業の多くは家族経営形態を採り、地域社会の安定をもたらす」の7つの役割を掲げ、中小企業なくして日本経済は成り立たないことを高らかに宣言しています。
氏が持ち出している労働生産性は「労働者1人当たりどれだけの付加価値を生み出したかの平均値」です。もうけが大きく価格競争力もある大企業は当然高く、大企業に比べ不利な条件の中で営業を強いられている中小企業は相対的に低くなります。優遇税制など大企業に手厚く、中小企業に冷たい経済政策こそ改めるべきです。
中小企業家同友会全国協議会では、政府が閣議決定している中小企業憲章について次のような政策要望をしています。①中小企業憲章を国民の総意とするため、国会決議をめざす。②中小企業を軸とした経済政策の戦略立案などを進めるため、首相直属の省庁横断的機能を発揮する会議体を設置する。③中小企業担当大臣を設置する。④中小企業庁の中小企業省への昇格。⑤「中小企業の日」「中小企業魅力発信月間」を盛り上げ周知する、です。
中小企業や国民は中小企業の淘汰を望んでいません。政府は中小企業と国民の置かれた状況を正面から認識すべきです。今求められていることは、「淘汰」ではなく「支援」です。