政府は20年11月に施行した特例法で地方銀行を向こう10年間、独占禁止法の適用対象外としました。地域に欠かせないインフラとして寡占に目をつぶっても体力を高めていくことが狙いです。また日銀も20年10月から3年間の時限措置として、経営統合などの条件を満たす金融機関を対象に、日銀に預ける当座預金の残高に年0.1%の金利を上乗せします。さらに地銀の合併に1件30億円を補助する交付金制度の創設も進めています。
この背景には、日銀の19年のレポートがあります。それは、人口減少によって資金需要が細り利ざや縮小に拍車がかかり、10年後、約6割の地銀が最終赤字になるというものです。
菅首相は、官房長官時代の18年の秋に「日本には1,900兆円の個人金融資産といった大きな潜在性がある」「これで赤字になるような地銀はまじめにやっていないんだ」と発言し地方銀行に対しての不満を口にしました。折しも、16年にマイナス金利導入から2年がたって、金融機関の利ざやが縮小して地銀の経営に大きな影響が出ている時でした。
この発言の真意は、「地方にお金を行き渡らせる金融緩和の継続は欠かせない。地銀は自らが知恵を働かせ地方に仕事や雇用を生み出すべきであり、そうした努力をしない銀行まで救うのは難しい」というものです。※日経新聞の特集、地銀大改革を参照
菅首相は昨年秋に自民党総裁選挙に立候補したときに、異次元の金融緩和について聞かれ、「地方の銀行は将来的には数が多すぎる」「地方銀行の再編も一つの選択肢」という発言をして、地銀の再編に意欲を見せていました。
この既定路線により、地銀の再編を急がせて「収益力の強化」ばかりを推し進めていけば、これまで良好な関係を築いてきた中小企業に対しても「貸し渋り」や「貸し剥がし」の心配が出てきます。地銀が寡占状態になると、地元の中小企業に選択の余地はなくなり、仮に貸し剥がしに合えば他に相談する金融機関はなくなってしまいます。
また、既に進んでいる支店の統廃合が一気に進んでしまします。大和総研によると、ここ数年で約1,000店舗の削減計画があるようです。それは、利用者の利便性を損なうものです。日本の銀行の支店が多いかというと既に少なくなっています。
人口10万人あたりの金融機関の店舗数(郵便局を除く)は、スペインが67、フランスが57、イタリア50、ドイツ42、アメリカ36、日本25、イギリス17となっています。ATMやネットバンキングの普及があっても、行き届いた暖かいサービスを受けたい中小企業や地域住民にとって地銀の支店の存在は欠かせません。
菅政権の中小企業政策の基本は「生産性の低い中小企業の再編の促進」です。今後20年に企業数を現状の6割程度に圧縮する計画を立てました。これを裏付けるように、税制でも「中小企業の経営資源の集約化に資する税制」として、中小企業の買収に関わる法人税の軽減措置を導入しました。
地銀の再編を追求すれば必ず切り捨てられる層が出てきます。銀行法第1条では「国民経済の健全な発展に資する」と高らかにうたっています。地銀再編の流れには疑問を抱きます。