租税における応能負担の原則を深読みすると

(1)応能負担の原則

簡潔に言えば「その負担できる能力のある人(法人を含む)の所得や財産に応じて租税を負担する」と定義できます。特に法律で定められているものではありませんが、以下の憲法の諸原則などから導き出されるものです。

具体的には①〔納税の義務〕第30条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。②〔課税の要件〕第84条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。③〔個人の尊重等〕第13条 すべて国民は、個人として尊重される。④〔平等原則等〕第14条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。⑤〔生存権等〕第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。⑥〔財産権〕第29条 財産権は、これを侵してはならない。となっています。(条文は簡略化し、読みやすいようにしています)

(2)応能負担原則の具体化

では、これを具体的に応用すれば次の4つに分類することができます。

①直接税中心…税は消費税のように同じ税率だと広く、薄く課税することとなります。そうなると富裕層でもそうでない人にも同じ税率をかけることになり選択の余地がなくなります。つまり「逆進性」が強くなります。したがって、所得税のように直接税を中心に課税することを原則とすべきです。しかし現行の法人税は、中小企業が活用できる800万円の軽減税率15%を超えれば全ての法人が23.2%の比例税率になっています。1984年43.4%、87年42%、90年37.5%、98年34.5%、99年30%、2012年25.5%、15年23.9%、16年23.4%、18年23.2%と、どんどん下がっています。本来、法人税にも累進税率を適用すべきですが、それどころか資本金が10億円を超えると実際に納める税率が下がっていく租税措置法などがあり、ここでも不公平になっています。

②総合課税と累進課税…現行の所得税は、株式の譲渡・配当、土地の譲渡、利子など分離(別計算)して課税しています。この税率は国税で15%です。所得税は、所得が多いほど適用税率が高くなる「超過累進課税」を採用しています。バブルが始まった頃は15段階ありました。しかし、バブル崩壊と平成大不況に見舞われていた1999年には税率が4段階(10%、20%、30%、37%)まで圧縮されました。現在の税率区分は7段階となりましたが、最高税率は45%でピーク時(1983年以前)の75%より30ポイントも低い状況です。したがって課税所得が1億円を超す人は、株式の譲渡・配当が多くなり「逆累進制」になっています。総合課税化と累進課税の強化を原則とすべきです。

③生活費非課税…憲法第25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障し、社会福祉保障及び公衆衛生上の向上と増進について国の努力を規定しています。しかし生活保護費(下関市在住、小学生1人、中学生1人を抱える母子家庭)は19万円にもなりません。国民が人間としてまっとうな暮らしをしていく上ではあまりにも低いと言わざるを得ません。それがどんどん削減されています。所得税の基礎控除は38万円となっています。所得が基礎控除を超えれば課税されることになります。必要最低限の生活費に課税することは憲法25条に違反しています。所得控除を最低でも100万円くらいにはすべきでしょう。

④勤労所得軽課・不労所得重課…所得税には10種類の区分がありそれぞれ別計算をすることになっています。その中で勤労所得(汗水垂らして働いて稼ぐもの)は、事業所得、給与所得、退職所得、雑所得があります。本来ならば、これらの所得が軽い税金、その他の所得が重たい税金を負担することが原理原則にかなったものになっています。上述したように株式の譲渡・配当所得のようなものは富裕層にとっては軽いものになっていますが、それ以外の人にとっては重たいものになっており逆転現象になっています。なおかつ、給与所得には給与所得控除があって優遇されていると事業所得者からは言われ、反対に給与所得者からは事業所得者は、何でもかんでも必要経費にしているとの応酬があります。まさにコップの中のけんか、言い換えると政府による弱い者の分断作戦に乗せられています。

(3)まとめ

以上見てきたように、日本の税金はどんどんゆがんできています。あるべき税制の姿を変えるのは選挙で選出された国会議員、つまり国会で決まります。

どの政党が、どのような税金に対するビジョンを考えてそれを投票の基準しなければこの問題は永久に解決されません。

しかし、およそ半分の有権者が投票に行っていない現実が横たわっています。この国をどんな形にするかそれを決めるのは1人1人の国民の意思にかかっています。新型コロナウイルスの関係で、解散の時期がどうなるか不透明ですが、どの議員、どの政党が税のあり方を示しているのかしっかり見定めて投票行動を行いましょう。