平昌オリンピックの日本人選手の大活躍、本当におめでとうございました。特に小柄な体を逆に武器にして金メダルを2つ獲得した高木姉妹のお姉さんの菜邦選手に対して、血のにじむような練習を重ねてきたことに心より敬意を表したいです。
ところで彼女は、今回のオリンピックで6,000万円の報奨金を手にすることになりました。内訳は、日本オリンピック委員会(JOC)から金メダル受賞報奨金500万円×2=1,000万円とJOC加盟団体の日本スケート連盟から同額の1,000万円、彼女が所属する日本電産サンキョウから2,000万円、その親会社の日本電産会長の永守重信会長個人からポケットマネー2,000万円です。
まず、JOCからの報奨金は平成6年の所得税の改正で非課税(所得税法9条1項14号)となりました。この背景には平成4年にバルセロナオリンピックで、当時まだ中学生の岩崎恭子さんが金メダルをとって報奨金をもらったことにより課税をされる税制に対し、多くの国民の「かわいそうだ」との声で非課税となった経緯がありました。したがって、この報奨金1,000万円は非課税です。
次に、JOC加盟団体である日本スケート連盟からの報奨金1,000万円は、平成22年の所得税の改正で非課税となっています。
問題は、彼女の所属会社からの報奨金の2,000万円ですが、これは所得税の非課税には該当しません。従業員として法人からもらって報奨金は給与所得に該当します。彼女が所属会社からもらう給与に合算され課税されます。おそらく、所属企業からの年俸はそんなに多くはないと思いますが、2,000万円が合算されると相当多くの所得税の負担となります。また、一年遅れで住民税の課税が待っています。いずれにしても、大きな課税となります。もし、親会社である日本電産からの報奨金となれば、法人からの贈与となり一時課税の対象になり、後述する設楽選手のような算式の課税がされ、給与所得より低い課税となります。
永守会長のポケットマネーからの報奨金は個人から個人への資産の移転となるため贈与税が課税されます。日本の税制では受け取った彼女の方が課税されます。アメリカではあげた方が贈与税を支払うことになっています。贈与税は、相続税の補完税という意味合いを持っているとも言われかなりカーブの高い累進課税になっています。贈与税は、{受け取った金額-基礎控除(110万円)}×税率=贈与税額となります。この算式に当てはめると、2,000万円-110万円=1,890万円×税率(課税所得が1,000万円超の場合は課税価格×50%-225万円)となり、算出税額は720万円となります。
したがって、所得税、住民税(所得控除が所得税より低いですが課税所得の10%が課税されます)、贈与税とかなりの税金の負担となります。
次に、東京マラソンで日本新記録を打ち立てた設楽悠太選手は、日本実業団陸上連盟から1億円という多額の報奨金をもらいました。この制度は、2020年東京オリンピックへの強化策として2015年に創設されました。馬の鼻先に人参をぶら下げるような制度とも言えますが、これが功を奏したのでしょうか。また、これとは別に彼は、東京マラソン2位の賞金と日本記録更新のボーナスとして900万円を手にしています。
これらの報奨金などは日本実業団陸上連盟という法人からの贈与です。法人からの贈与は、個人からの贈与が贈与税になるのと異なり所得税の一時所得の課税になります。税法はなかなか難しいですね。さて、この贈与にはオリンピックの報奨金のような非課税規定がないので、課税上は前述したように所得税の一時所得となります。
一時所得の算式は、総収入金額-その収入を得るために支出した金額-特別控除(最高50万円)です。なお、一時所得は1/2が総合課税に合算され課税されます。おそらく、その収入を得るために支出した金額はあまり多くはなくまた、算定するのはかなり難しいのではないかと思われます。広義に解釈すれば、今までの陸上人生で支出した金額の合計額となりますが、狭義に解釈すれば、この東京マラソンだけに支出した金額だろうと思います。私見では、後者ではないかと思います。
後者だとすれば、その金額はかなり限定されると思います。仮に、ゼロだとすると、(1億900万円-0円-50万円)×1/2=5,425万円が総合課税の対象となり、彼が所属するホンダからの給与と合算されます。
いずれにしても、大きな課税が待っていますので、納税額を残して使わないと納税する段になってお金がないという事態も想定されます。高木菜邦選手も設楽悠太選手も若いので、お金に対する価値観が随分と違うと思います。くれぐれも無駄遣いをしないで、さらなる高見をめざして奮闘してもらいたいものです。