カテゴリー: 経営環境

租税における応能負担の原則を深読みすると

(1)応能負担の原則

簡潔に言えば「その負担できる能力のある人(法人を含む)の所得や財産に応じて租税を負担する」と定義できます。特に法律で定められているものではありませんが、以下の憲法の諸原則などから導き出されるものです。

具体的には①〔納税の義務〕第30条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。②〔課税の要件〕第84条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。③〔個人の尊重等〕第13条 すべて国民は、個人として尊重される。④〔平等原則等〕第14条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。⑤〔生存権等〕第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。⑥〔財産権〕第29条 財産権は、これを侵してはならない。となっています。(条文は簡略化し、読みやすいようにしています)

(2)応能負担原則の具体化

では、これを具体的に応用すれば次の4つに分類することができます。

①直接税中心…税は消費税のように同じ税率だと広く、薄く課税することとなります。そうなると富裕層でもそうでない人にも同じ税率をかけることになり選択の余地がなくなります。つまり「逆進性」が強くなります。したがって、所得税のように直接税を中心に課税することを原則とすべきです。しかし現行の法人税は、中小企業が活用できる800万円の軽減税率15%を超えれば全ての法人が23.2%の比例税率になっています。1984年43.4%、87年42%、90年37.5%、98年34.5%、99年30%、2012年25.5%、15年23.9%、16年23.4%、18年23.2%と、どんどん下がっています。本来、法人税にも累進税率を適用すべきですが、それどころか資本金が10億円を超えると実際に納める税率が下がっていく租税措置法などがあり、ここでも不公平になっています。

②総合課税と累進課税…現行の所得税は、株式の譲渡・配当、土地の譲渡、利子など分離(別計算)して課税しています。この税率は国税で15%です。所得税は、所得が多いほど適用税率が高くなる「超過累進課税」を採用しています。バブルが始まった頃は15段階ありました。しかし、バブル崩壊と平成大不況に見舞われていた1999年には税率が4段階(10%、20%、30%、37%)まで圧縮されました。現在の税率区分は7段階となりましたが、最高税率は45%でピーク時(1983年以前)の75%より30ポイントも低い状況です。したがって課税所得が1億円を超す人は、株式の譲渡・配当が多くなり「逆累進制」になっています。総合課税化と累進課税の強化を原則とすべきです。

③生活費非課税…憲法第25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障し、社会福祉保障及び公衆衛生上の向上と増進について国の努力を規定しています。しかし生活保護費(下関市在住、小学生1人、中学生1人を抱える母子家庭)は19万円にもなりません。国民が人間としてまっとうな暮らしをしていく上ではあまりにも低いと言わざるを得ません。それがどんどん削減されています。所得税の基礎控除は38万円となっています。所得が基礎控除を超えれば課税されることになります。必要最低限の生活費に課税することは憲法25条に違反しています。所得控除を最低でも100万円くらいにはすべきでしょう。

④勤労所得軽課・不労所得重課…所得税には10種類の区分がありそれぞれ別計算をすることになっています。その中で勤労所得(汗水垂らして働いて稼ぐもの)は、事業所得、給与所得、退職所得、雑所得があります。本来ならば、これらの所得が軽い税金、その他の所得が重たい税金を負担することが原理原則にかなったものになっています。上述したように株式の譲渡・配当所得のようなものは富裕層にとっては軽いものになっていますが、それ以外の人にとっては重たいものになっており逆転現象になっています。なおかつ、給与所得には給与所得控除があって優遇されていると事業所得者からは言われ、反対に給与所得者からは事業所得者は、何でもかんでも必要経費にしているとの応酬があります。まさにコップの中のけんか、言い換えると政府による弱い者の分断作戦に乗せられています。

(3)まとめ

以上見てきたように、日本の税金はどんどんゆがんできています。あるべき税制の姿を変えるのは選挙で選出された国会議員、つまり国会で決まります。

どの政党が、どのような税金に対するビジョンを考えてそれを投票の基準しなければこの問題は永久に解決されません。

しかし、およそ半分の有権者が投票に行っていない現実が横たわっています。この国をどんな形にするかそれを決めるのは1人1人の国民の意思にかかっています。新型コロナウイルスの関係で、解散の時期がどうなるか不透明ですが、どの議員、どの政党が税のあり方を示しているのかしっかり見定めて投票行動を行いましょう。

 

国民生活を守るのは消費税減税(0%)が一番

コロナウイルスの影響がとどまるところを知らない状況になっています。安倍首相は4月7日、「緊急事態宣言」出しました。

朝日新聞の8日付けの記事を要約すると①対象は東京都など7都府県、②期間は大型連休が終わる5月6日まで、③解除・延長は、専門家の評価をもとに判断、④都市封鎖は行わず、可能な限り経済社会機能は維持、⑤人と人との接触機会の7~8減をめざす、というものです。テレビのワイドショーでも井戸端会議でもこの話題で持ちきりです。

すでに世界保健機関(WHO)が3月11日にパンデミックを宣言しました。個人的には今般の対応は全て「後手、後手」のような気がします。

プリンセスダイヤモンド号の乗客から感染者が出たとき、目に見えないウイルスを封じ込めることがいかに難しいかが明らかになり、その後も、和歌山県の有田病院、大阪のライブハウスや中国からの旅行客を大量に受け入れていた北海道でクラスター感染により感染者が急増、現在、全国的に発生源が不明な患者が増加していることを教訓化したらもう少し早く対応ができたのではないでしょうか。専門家委員会と相談しての決定と言いますが、議事録はすぐには公開されないようで、国民の不安は募るばかりです。

しかもその期間の経済的損失は「自己責任で何とかせよ」という姿勢が見て取れます。それは、安倍首相がドイツを意識してのGDPの20%の108兆円の緊急経済対策の事業規模のまやかしです。この中には昨年12月に決定した経済対策の未執行分20兆円、負担を先送りする納税・社会保険料の猶予分26兆円まで含まれています。いわば粉飾して国民を煙に巻いていると言わざるをえません。

その目玉は、収入が減少した世帯に1世帯あたり30万円現金給付を行うというものですが、その要件が非常に厳しく、経済評論家の森永卓郎氏は「現金給付に所得制限をかけようとしているが、収入が減ったなんてどうやって証明するのか」とコメントされています。また、有り体に言えばまず「医師の診断書を取ってからでないと適用しない」という仕組みになっています。必要なのは、今必要なお金なのです。

さらにこれは、新たな不公平を生む内容になっています。例えば、世帯主の収入減になっているので、配偶者などのものは考慮されません。また、わずかの減少金額の差で、もらえる人ともらえない人が生じたり、逆転現象も生まれてきます。これなら、申請者には誰でも10万円給付できる形の当初案の方が早く進むし、公平や平等が担保できます。つまり「医師の診断書」なしで適用できるようにした方がまだ良かったのではないかと思います。

しかし、究極の経済対策は、与野党から上がっている消費税の減税です。自民党の国会議員有志は3月30日、消費税の実質0%引き下げを求める緊急声明を発表しました。この声明をまとめた安藤裕衆議院議員は「消費増税によって経済は壊れている。デフレ状態が続くうちは消費税を大幅に下げるべきだ」と話しています。

消費税を0%にすることは実務的には税率変更時の手続きと同様であり、すでに事業者、税理士、税務署職員共に全て経験済みで大きな負担は発生せず、かつ、その効果は全ての国民が享受することができるものです。何より逆進性の強い消費税は、経済的に弱い立場にある人には大きなインパクトがあります。

現在のコロナウイルスでのさらなる景気の落ち込みを踏みとどめるためには、消費税率をゼロにする以外に道はないと考えています。財源は、当面は国債で賄い、景気が回復軌道に乗ってきたら消費税ではなく、消費税導入前の「物品税」に先祖帰りをすれば良いと思います。

 

中小企業大臣の設置が焦眉の急ではないでしょうか!?

政府は、2010年6月18日政府は閣議決定で「中小企業憲章」を制定しました。

その前文では『中小企業は、経済を牽引する力であり、社会の主役である。~中略~政府が中核となり、国の総力を挙げて、中小企業の持つ個性や可能性を存分に伸ばし、自立する中小企業を励まし、困っている中小企業を支え、そして、どんな問題も中小企業の立場で考えていく。これにより、中小企業が光り輝き、もって、安定的で活力ある経済と豊かな国民生活が実現されるよう、ここに中小企業憲章を定める。』

基本理念では『中小企業は、経済やくらしを支え、牽引する。~中略~難局の克服への展開が求められるこのような時代にこそ、これまで以上に意欲を持って努力と創意工夫を重ねることに高い価値を置かなければならない。中小企業は、その大いなる担い手である。』

と高らかに表明しています。

最新の中小企業白書(2016年)によると、中小企業の数は357.8万社、うち小企業(商業・サービス業は5人以下、製造業その他は20人以下)は304.8社、大企業は1.1万社、わずか0.3%です。したがって、中小企業の占める割合は99.7%です。また、そこで働く人の割合は約70%と言われています。

「中小企業憲章」では「中小企業は、経済を牽引する力であり、社会の主役である。」と言いながら、2020年度の予算で付いた中小企業対策費は一般歳出のわずか0.27%で1,753億円(19年度比37億円減)です。1社あたり4.9万円しかありません。驚くことに賃上げ対策費は11億円、1社あたり300円という驚愕の数字です。中小企業庁は経済産業省の外局ですがその定員は195人、防衛省の外局である防衛装備庁の1,813人の約1割です。本当に「中小企業憲章」の理念通りの政策を取るとしたら、大企業におもねる政策ではなく、中小企業の懐があたためられるような政策と予算と人員配置をして欲しいものです。

昨年の消費税を期に事業を廃業された方もこの確定申告で垣間見られました。そこに、新型コロナウィルスでの「自粛騒動」でその数は加速度的に進むでしょう。

「オーバーの上からから背中を掻く」のようなやり方ではなく、正面から中小企業の廃業等極小化する構えが政治の世界で必要でしょう。ただでさえ、後継者不在率は全国平均で65.2%です。地元の山口では、全国ワースト3の74.7%です。私見ですが、中小企業大臣を新たなポストに置き、一桁多い予算と定員にすべきではないでしょうか。

不要不急な予算はたくさんあります。その最たるものが防衛費です。この歳出は、8年連続の増額で、はじめて、5兆3,000億円にもなりました。なんと中小企業関連予算の30倍です。例えば、戦艦大和とほぼ同じ大きさの「いずも」型護衛艦を空母に改修する費用は31億円です。賃上げ対策費「業務改善等助成金」は11億円の約3倍です。また、その空母に載せる戦闘機のF35Bを6機793億円出してトランプ大統領から押しつけられて買います。こうした攻撃型の防衛費は本当に必要なのでしょうか?多いなる疑義があります。

ヨーロッパの小企業憲章には「Think small first」と言う考えを表明しています。是非、政治家や官僚の皆さんはそれを見習って欲しいと切に願っています。

2020年予算を考える

2020年の予算を深掘りすると

(1)2020年度予算は過去最高のものとなった

①歳入の102.6兆円の内訳は税収入63.5兆円(61.9%)うち所得税19.5兆円(19.0%)、法人税12.0兆円(11.7%)、消費税21.7兆円(21.1%)、その他10.2兆円(9.9%)税外収入6.6兆円(6.4%)国債発行32.6兆円(31.7%)となっています。

②一方、歳出102.6兆円の内訳は、社会保障費35.9兆円(34.9%)、公共事業費6.9兆円(6.7%)文教科学振興費5.5兆円(5.4%)、防衛費5.3兆円(5.2%)その他10.0兆円(9.7%)地方交付税交付金15.8兆円(15.4%)、国債費23.4兆円(22.7%)となっています。政府が言う「プライマリーバランス」とはほど遠い予算です。

(2) プライマリーバランスとは

プライマリーバランス(Primary Balance)とは、国や地方自治体などの基礎的な財政収支のことをいいます。一般会計において、歳入総額から国債等の発行(借金)による収入を差し引いた金額と、歳出総額から国債費等を差し引いた金額のバランスを見たものです。プライマリーバランスがプラスということは、国債の発行に頼らずにその年の国民の税負担などで国民生活に必要な支出がまかなえている状態を意味します。

逆に、プライマリーバランスがマイナスということは、国債等を発行しないと支出をまかなえないことを意味します。

近年の日本は、プライマリーバランスがマイナス(赤字)の状態が続いています。国債残高の増加傾向に歯止めがかからない状況からも、早期のプライマリーバランスのプラス(黒字)化を目指していますが、政府が掲げている2025年度の黒字化の実現も困難だということが2019年1月の経済財政諮問会議に提出されました。(SMBC日興證券ホームページより)

(3)1990年度決算(消費税導入時)と2020年度予算との主な税収の比較

1990年決算 2020年度予算 増減
所得税 26.0兆円 19.5兆円 ▲6.5兆円
法人税 18.4兆円 12.0兆円 ▲6.3兆円
消費税 5.8兆円 21.7兆円 +15.9兆円

             

このデータから言えることは、①消費税が主要3税の中で一番大きくなったこと、②この30年の中で消費税が+15.9兆円になり、それが所得税と法人税の減税に使われたこと、③このままの流れで行けば、特に法人税の減税の財源として消費税が使われる可能性が大であることです。

(4)消費税を0%にするという声

新型コロナウイルスの感染拡大を受けた経済対策ついて、自民党の安藤裕衆院議員ら有志議員が3月11日、西村康稔経済再生担当相に、当分の間、消費税率を0%とすることなどを求める提言書を手渡した。

提言では、消費税は当分の間、軽減税率を0%にした上で、全品目に適用するよう求めた。6月頃には減税が実施できるよう調整を速やかに行うべきとした。

また減税分も含めて総額30兆円規模の補正予算を編成することも盛り込んだ。財源には国債を充て、政府が掲げる基礎的財政収支(PB)黒字化目標は、「当面の間延期」とした。提言には有志41人が賛同している。

安藤氏は政府の緊急対策について、「今の日本経済の影響を見ていると、とても規模が小さいし遅い」と指摘。1-3月期の国内総生産(GDP)も大幅なマイナスになることが予想されるとして、「今までにないような規模、発想の大胆な経済政策を打つべきだ」と述べた。

提言を受けた西村再生相は、新型肺炎の感染拡大は「経済に相当厳しい影響を与えてきているという認識」と述べ、「前例にとらわれず思い切ったことをやらないといけないということを頭に置きながら取り組んでいきたい」との考えを示した。(ブルームバーグより引用)

もちろん、野党の方からも当面5%に戻すことが現実路線として出されています。

個人的には、日本経済が大恐慌になる前に思い切って0%にして、新たな財源として消費税導入前の物品税への先祖返りをすべきだと考えております。その理由は、広く、薄く取る消費税より、消費者の購入の代替可能性、選択可能性が可能だからです。例えば1,000万円をする高級外車なら25%、軽自動車だったら5%という税率にすれば、「逆進性」の解消にもつながります。

(5)財源はどうするの(いずれも公平な税制を求める会の試算)

①所得税の税率を消費税増税前に引き直すと

申告所得税(最高税率75%)の増収13.4兆円+源泉分離課税(35%)の増収5.5兆円

②相続税を消費税増税前(最高税率70%)に引き直すと1.1兆円の増収

③法人税を現在の所得税並みの累進課税(5%、15%、25%、35%、45%)にすれば21.0兆円の増収

④①~③の合計41兆円の税収増が見込まれ消費税を0にしても19.3兆円の財源が生まれ2020年度当初予算の国債費23.4兆円をほとんどまかなえることができる。

ドイツにおける新型・コロナウイルス対策

ドイツで働いている娘からのLINEによる情報を提供します。既に、中国からヨーロッパに感染対策は移行しています。なぜかイタリアがもの凄いことになっていますね。

日本では『新型・コロナウイルスで休校やイベントの自粛が要請されている中、椎名林檎率いるバンド「東京事変」が2月29日、3月1日とライブを決行したことに「自己責任とかの問題ではない」「ウイルス封じは足並みそろえて徹底的にやらないと意味がないと思うけど」など、批判の声が殺到し、ついにその後の5公演が中止に追い込まれることになった。』(夕刊フジより抜粋)などあくまで「自粛要請」となっています。

ところがドイツでは事情はかなり違います。ドイツの正式名称はドイツ連邦共和国です。16の連邦州があり、ベルリンとハンブルクは都市州と呼ばれ、単独で連邦州を形成しています。ドイツの人口は約8000万人、面積は日本より少し小さい位ですが山間部が少ないので人口密度は全然違います。

ドイツは州に強い権限を集中させています。娘が住んでいるノルトライン=ヴェストファーレン州(州都はデュッセルドルフで、ケルンやボンも同じ州です。長いのでNRW州と略されることもあります。)

余談が長くなりましたが、娘のLINEを忠実に再現します。

『本日、NRW州保健省が新たに施行した政令は以下のとおりです。

○16日(月)以降、全ての遊興のための施設(バー、(ナイト)クラブ、ディスコ、カジノ劇場、映画館、美術館、博物館)を」閉鎖する。風俗施設も閉鎖される。

○17日(火)以降、フィットネス・ジム・プール・浴場施設、サウナも閉鎖される。

○17日(火)以降、スポーツ団体はじめ全てのスポーツ、レジャー施設における会合、市民大学、音楽教室、その他の公営・民営の教育施設の開校を禁止(注:13日に発出された政令により、一般の学校・幼稚園の休校・休園はすでに措置済み)。

○ショッピングセンター・ショッピングモール・家具店・アウトレットのへの立ち入りはどうしても延期できない。必需品のみ、厳格な体制の下、認められる。これにより、学校が休校になった子供たちがこれらの施設に集まることを防止する狙いもある。

○食料品、現金、衣料、医薬品、その他の日用品の安定的な供給を確保するため、銀行、商店(特に食品や飼料を販売する店)薬局・ドラッグストアの営業は継続される。

○図書館、レストラン、ホテルの営業については、新型・コロナウイルスの拡大を防ぐため厳格な制約を課される。

○これらの措置は当面4月19日まで行われる。その後の対応はロベルト・コッホ研究所(ドイツの感染症研究・対策機関)の現状分析を踏まえて決定される。』

さまざまな国の人を乗せた豪華客船が事故に遭って沈みだしました。船長は、速やかに船から脱出して海に飛び込むように、乗客たちに指示しなければなりません。それぞれの外国人乗客に何といって説得するでしょうか(早坂隆『世界の日本人ジョーク集』中公新書ラクレ)。

アメリカ人には「飛び込めばあなたは英雄ですよ」と言い、イギリス人には「飛び込めばあなたは紳士です」と言います。ドイツ人には「飛び込むのがこの船の規則となっています」と言えばOK。イタリア人には「飛び込むと女性にもてますよ」、フランス人には「飛び込まないでください」と言うのがよいそうです。では、私たち日本人には、何と言えばよいでしょうか。答えは「みんな飛び込んでいますよ」です。

日本ではマスクや消毒液不足やはたまたトイレットペーパーまでなくなってしまうこの国、「みんな飛び込んでいますよ」を地で行っています。

「情報の隠蔽・破棄・改ざんなど」が当たり前になっているこの国を憂うのは、私だけではないでしょう。「鯛は頭から腐る」と国会で質問をして、「意味のない質問だね」と平然と言える政治体制と決別しないといけません。そうでないとこの国は、昨年10月の消費税増税、そして新型・コロナウイルスによるダブルパンチで「大恐慌に」なる可能性も大いにあり得るのではないでしょうか。

税理士カネコは考えた!商工会議所での出来事

確定申告の初日2月17日(月)私は地元の商工会議所の会議室にいました。税務援助の一環です。その日の開始30分前の午後1時に会場の会議室に入ったら10人位しか席がないのに既に満杯でした。商工会議所の職員が「1時半からの案内なので、その時間から始めてください。」との指示だったので、それまで、消費税については手書きで申告書を書いたことがなかったので、目を皿のようにして読みましたが私の理解力が悪いのか要領を得ませんでした。因みに、消費税の申告の手引きも国税庁が慌てて作ったのか誤植が2カ所ありました。

商工会議所の事績簿には、住所・氏名・屋号・売上金額・後継者の有無・その相談の必要性の有無の有無を書く欄がありました。

さて、いざ開始すると、職員の相談員が2名と補助の方が1名それに私の4人で対応に当たりました。あらかじめ職員から聞いていたのですが、「基本的に相談者は青色申告者で青色決算書や確定申告書に記載がされており、チェックを中心にお願いします。」とのことでしたので、少し安心をしていた矢先、最初の相談者が損失の申告でした。

(ケース1)年金の金額がたくさんあり、源泉徴収もされていました。ところが、ここ3年間事業所得がマイナスなのです。今年の収入はゼロで必要経費のみ計上されていました。事業の損失と年金所得を通算すればすべての源泉税が還付になります。少し首をかしげる申告書でした。相談者は納税者の奥様でした。その奥様に、本当に売上高がゼロなのか聞いてみたところ「主人はある大手メーカーで、機械のメンテナンスの仕事をしていていたのですが、営業をまるでしないのです。その結果、この一年はまるで仕事がなかったんです。」との返事でした。

(ケース2)ご主人が昨年11月に亡くなったので、事業を廃止するという相談者がありました。準確定申告の作成指導をしました。それなりに所得がある納税者でしたが、後継者がいないので廃業と言うことになったそうです。山口県は、後継者がいない県のワースト3位(因みに、ワースト1は沖縄県、2位は鳥取県です。)というありさまです。

(ケース3)製造業を営む方で高齢だし、後継者もいないので事業を10月にたたんだ人の事例です。事業は、償却資産の除却などでそれなりの損失が出でいました。一方で、小規模企業共済掛け金を最高額(月7万円)支払っておられました。30年近く加入があったのでそれなりの金額の給付金があり、ばっちり源泉税を取られていました。ご病気をされたのか医療費控除等もたくさんありました。事業所得の損失と退職所得の損益通算と多額の所得控除があって、かなりの還付金になりました。

(ケース4)職員が相談に途中まで乗っていて、また損失の申告だと言うことで私のところに回ってきた林業を営むアラサーの青年です。また損失の申告?と思いましたが、確かに青色決算書を見ると損失が出ていました。しかし、必要経費のところをよく見ると「土地」が必要経費になっていました。本人に聞くと自分が使っているPCのソフトに土地という項目があったのでそこに入れたと言うことでした。若いのでパソコンには習熟されているようで、このソフトも無償で手に入れたと言っていました。どうして、土地勘定が必要経費に設定できるのかは不明です。昨年に、脱サラをして下関市の中山間地で両親と一緒に暮らしているそうです。今の仕事が面白くて仕方ないと活き活きされていました。

時間があっという間に過ぎてしまい、時計を見たら5時を回っていました。この日は、11枚の申告書に目を通しました。しかし、懸念をしていた消費税とは縁がなく、やたらと損失の申告が多かった印象があります。そして、商工会議所が用意していた事績簿の「後継者がいる」の部分は/を入れるしかありませんでした。唯一山林業の青年のファイトに救われました。

下関市は平成の大合併で2005年(平成17年)旧下関市と郡部4町が合併して、新しい「下関市」が誕生しました。この合併により、新しい下関市は、福祉やまちづくりなどの権限が移譲される「中核市」の要件を満たし、その年の10月には中核市になりました。その当時は、合併によりバラ色の未来が切り開かれるような「マインドコントロール」をされていました。当時の人口は、301,097人(平成12年国勢調査)で、人口30万人以上という「中核市」の当時の要件すれすれでした。しかし、5年ごとに行われる国勢調査(平成17年)の確定値では、もはや人口は実際には30万人を割り込んでおり、290,693人でした。あれから15年、2020年3月の市報によるとその人口は、260,614人と最高時から40,483人、13.4%という急速な人口減少です。この街の特徴である水産業、観光業など衰退の一途です。

安倍首相の地元の下関市、「ふるさと創生」をスローガンにあげるのなら、自ら手本を示し全国一街作りの見本にして欲しいものです。

所得税の確定申告の申告期限が延長

「国税庁は27日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて所得税の確定申告の期間を1カ月延長し、4月16日までにすると発表した。個人事業者の消費税の受付期間も3月31日から4月16日までに延長する。」という情報をネットで配信しました。

※2020年2月27日 日本経済新聞電子版より引用

早速、翌28日に弊税理士法人が所在する所轄署の山口税務署、徳山税務署、下関税務署にそれぞれ問い合わせたところ、予定通り納税への相談業務はそれぞれの会場で行うと言うことでした。また、アルコール消毒液、マスクの準備もしているそうです。

広島国税局の納税者支援調整官に問い合わせたところ、大きな会場の場合にはマスクが不足する可能性もあるとのことでした。3月17日以後の納税者への相談体制については協議中とのことでした。

日経新聞では、1面トップに「全国小中高に休校要請」との大見出しで、さらに関連記事で2~4、9、11、15面に関連記事が出ていました。それに対して前例のない全国一斉の実施の申告期限延長という異例の措置が、社会欄(最終ページの文化欄の1ページ前)の中段にわずか20行しかその記載はありませんでした。

記事の要点は「~東日本大震災後に被災者などを対象に期間を延長した前例はあるが、全国一律の延長は初めて。国税庁によると全国で約400万人が期間中に相談や申告に訪れる。期間延長により混雑緩和をはかる。~」という内容でした。

もちろん、インパクトの点で言えば「全国小中高に休校要請」の方が大きいのでしょうが、400万人もの多数が関わる所得税の確定申告もせめてもっと目立つようなところに記載して欲しかったと言うのが私の思いです。

国税庁のホームページでは次のように記載されています。

令和2年2月27日 国税庁

申告所得税、贈与税及び個人事業者の申告・申告期限の延長について

『~今般、政府の方針を踏まえ、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、申告所得税(及び復興特別所得税)、贈与税及び個人事業者の消費税(及び地方消費税)の申告期限・申告期限について、令和2年4月16日(木)まで延長することとしました。

これに伴い、申告所得税及び個人の消費税の振替納税をご利用されている方の振替日についても、延長することとしています。』

デジタルデバイス(PCなどを使える人と使えない人による情報の格差)とよく言われますが、国税庁も早く方針を早急に固め、特に高齢や障がいをお持ちの方々に速やかに、分かり易く広報して欲しいと願っています。

因みにアメリカの申告期限は4月15日、ドイツは7月末、イギリスはなんと翌年1月31日です。

今般の新型コロナウイルス感染症だけではなく、わが国の確定申告の申告期限はインフルエンザや風邪等が流行る時期と重なります。アメリカのまねがお好きなわが国も今回の措置を特例だけに終わらせずに、次年度から4月15日にしたらどうでしょうか。

3つの財務分析指標の計算式とその活用(その2)

前回は、損益分岐点売上の考え方とその応用を考えました。その中で、売上至上主義は問題があると言いました。そんな考え方をP/L(損益計算書の略です)思考と言います。売上高をひたすら追求すれば事業の規模の拡大にはつながりますが、この考え方は実は非常に怖いところがあります。なぜかと言えば売上高は、ある意味「いけいけどんどん」である程度まではいくのですが、「薬物中毒」のごとく頭の中は「売上高」だけしか無くなってしまうのです。

P/L思考の経営者の会社は、気づいてみたら肝心な貸借対照表の「内部留保」が非常に少ない場合や果ては「欠損企業」に陥っていたと言うこともままあります。

企業は存続させることに意味があります。「企業30年説」と言う言葉を聞かれた方もあるかもしれません。会社は「設立5年で約85%の企業が消え、10年以上存続出来る企業は僅か6%、20年続く会社は0.3%、そして30年以上存続する会社は何と0.025%」だそうです。

逆説的に言えば30年間続いた企業は「老舗」と言われています。企業の使命は、永続すること(ゴーイングコンサーンと言います)です。にもかかわらず30年企業は、日本の定期預金の金利程度しかありません。その原因はB/S(貸借対照表の略です)思考がないからです。つまり、強靱な財務体質を作るための努力目標、言い換えれば、潰れない企業を作るための指標が自己資本比率なのです。

自己資本比率とは

(1) 自己資本比率の算式

この算式の自己資本とは返さなくてもよい資本を言います。つまり、貸借対照表の貸方(右側)にある純資産の部が該当します。具体的には資本金+資本剰余金(配当をしたときなどで使う程度で余り使用頻度は高くありません)+利益剰余金(よう使う内部留保に近いものです)の合計額を言います。貸借対照表の貸方は、資金をどこから調達したかを示しています。結局、自己資本とは誰にも返済しなくてもかまわない資金を言います。

総資本とは、自己資本+他人資本(将来誰かに返済を要する債務です)を言います。具体的には貸借対照表の合計欄を言います。

 

(2) 自己資本比率は30%必要

自己資本比率は、よく「潰れない指標」と呼ばれています。業種によって違いますが、一般論としてこの指標が50%を超えていると倒産リスクがほぼ無い「超優良企業」とされ、40%以上だと倒産リスクの極めて少ない「優良企業」だと判断されます。この40%の根拠は、上場企業の平均値だと言われています。ちなみに中小企業だと10%内外で低迷しているのが実情です。

したがって自己資本比率が40%になるまでは、資金の伴う節税(例えば短期前払い費用や包装資材のまとめ買いなど)はしない方が良いと考えられます。キャッシュフローに優しい(資金の流失が伴わない)税額控除(例えば雇用促進税制や中小企業等投資促進税制など)は活用しても良いかもしれません。

「納税をする」とは別の言い方をすれば、「潰れない会社にするためのコスト」とも言えます。

 

(3) 自己資本比率の改善の方策~自己資本を多くする

まず、上記(1)の自己資本に着目してください。自己資本を良くするには二つの方法があります。

その一つは、税引き前の利益を積み上げることです。法人税の基本税率は、昭和49年の43.3%を最高に、この間9回の改訂により平成30年分では23.2%と約半分になっています。また、中小企業(期末資本金が1億円以下の法人)は、課税所得が800万円までは15%(本則では19%です)と大幅に軽減されています。したがって、以前より大幅に会社に貯まる内部留保の金額は増えます。このことを理解できない社長が多く、説明し納得していただくのには相当に苦労します。

もう一つは、資本金を増やすことです。会社の資金繰りの事情で社長個人の余剰資金を会社に貸し付けている例が多くあります。そうした場合、その貸付金(会社から見れば借入金)を元手に増資をすることです。資本金が過小なとことは、1,000万円までだと法人住民税の均等割は変わりませんので検討の余地はあります。この手法をデット(債務)・エクイティ(資本)・スワップ(交換)(DES、略してデスと呼びます)と言います。具体的には会社に対して貸付金(金銭債権)を有している社長(債権者)がその債権を自社(債務者)の株式に振り替えることをいいます。もし、多額の貸付金があっても、住民税の均等割は高くなっても資本金1億円までは法人税法上は中小企業なので一度検討してみてはいかがでしょうか。

 

(4) 自己資本比率の改善の方策~総資産を減少させる、その1、余剰な預金は極力減らす

今度は分母の自己資本に着目しましょう。当然のことながら、分母の数字が小さければ分子の数字がさほどでなくても、目安の40%をクリアーできます。

具体的な例で説明しましょう。分子の数字を例えば500万円とします。分母の数字が5,000万円だとすると自己資本比率は、(500万円÷5,000万円)×100なので10%になります。上記(2)で示した中小企業の平均値くらいになります。この分子を5,000万円から1,250万円にしたらどうでしょうか。すると(500万円÷1,250万円)×100なので潰れない指標の目安である40%をクリアします。

そうするためにはどんな方法があるでしょうか。B/Sに着目すると、右側(貸方)と左側(借方)は必ず一致すると言う会計の大原則があります。細かい原理は知らなくても構いません。ただ、覚えていて欲しいのは、右側の合計額を「総資本」と言い、資金をどこから調達したかを示しています。そのうち、いつかは誰かに返さないといけない資金を「他人資本」と言います。そして、上記(1)で説明したように誰にも返さなくてもいい資金を「自己資本」と言います。

左側(借方)は、右側で調達してきた資金をどのように運用したかを示しています。したがって、その合計額を「総資産」と呼びます。総資本には、「流動資産(1年以内に換金できるものや在庫から構成されています)」と「固定資産(1年を超えないと換金できないものや設備投資にかかった帳簿価格から減価償却を控除したものや土地などから構成されています)」から成り立っています。

自己資本=自己資産なので、自己資産の見直しをすることにより自己資本を少なくすることができます。まず、チェックしないといけないのは流動資産の預金です。今は、金融庁のお達し(金融機関の優越的地位の濫用)で表だってはできなくなりましたが、金融機関が融資をする条件として、金融機関の貸付金の一部を「融資を円滑にするために定期預金にお願いできませんか?」とお願いされることが散見されます。これを「歩積み両建預金や」「にらみ預金」と言ったりしますが、低金利の時代に多めに融資をして、それを定期預金にしてもらえればその金利差が金融機関の儲けになりますし、もし返済があやしくなればその定期預金を解約して返済金の一部に充てることができます。こんな定期預金は不必要なので即刻解約しましょう。

次に多いのは、いつも資金繰りを楽にしようと思って、例えば月末のピーク時の資金をいつも当座預金や普通預金にしている会社があります。こうした会社にお薦めなのは「当座借越契約」です。月末のピーク時に足らなくなった資金だけ金融機関から融資を受け、売掛金等の回収ができ次第返済をする契約です。この契約を締結すれば、少しだけの資金不足のタイム・ラグを少ない金利で済ますことができますし、日常的にピーク時の資金を持っていなくても会社の資金繰りに支障が無くなります。それと同時に、その資金のために金融機関から借りている運転資金を最小化でき支払利息の減少にもつながります。ただ、金融機関との信頼関係が前提ですので、支店長などに会社の状況を「月次決算報告書」で説明するなどの努力が不可欠です。

もちろんですが、無借金経営をすることが理想ですし、自己資本比率の高い会社は無借金経営をされている会社が多いことも事実です。ただ、金融機関との良好なお付き合いはすべきです。それは、「まさか」というときの資金需要があるときのためだけでなく、金融機関が持っている情報力やノウハウを活用するためです。例えば、得意先や不動産などの情報や会社をその金融機関がどのように評価しているかが分かります。

 

(5) 自己資本比率の改善の方策~総資産を減少させる(その2、売上債権を減らす)

次に着目したいのが、売上債権(受取手形や売掛金)を減少させることです。売上高を上げることはP/L的思考の代表的な考え方ですが、売上高を上げることが会社の資金の獲得の必須条件です。

問題はその売上高により生じた相手方からお金をもらう権利(これを売上債権と言います)をどのように管理しているかです。理想は、商品やサービスを提供したと同時に現金をもらうことです。そうすれば、長期間回収できない売上債権も発生しませんし、回収不能(貸倒れ)にもなりません。

反対に、営業マンに過度な売上高のノルマを課す営業方法をとるなどした場合や、売上高の多寡により給料が決まる歩合制を採っていたら「架空売上」が発生するリスクが生じます。

売上債権が少なくなればなるほど「総資産」は減少します。まずしなければならないことは、売上債権の分析です。

受取手形を貰っているところは、現金化するまで相当の月日が必要です。今は少なくなったでしょうが業界によっては「台風手形」や(210日サイト、振出日から決済日まで210日の長期手形、古来より9月1日前後に台風が多いのでそのようなネーミングなったと言われています)や「お産手形」と言って(お産になぞらえて決済まで十月十日という超長期手形)と言った信じられない手形が業界(例えばきもの業界)によっては存在します。

こんな手形を持っていたら売上代金が上がれば上がるほど運転資金が必要になります。得意先と交渉をして、受取手形での決済をやめてもらうか、そのサイトを極力小さくしてもらうか、少なくても半金・半手(半分現金で残りの半分を手形)にしてもらうことが大事です。交渉ごとなので、何かのサービスを付加するか、単価の引き下げを交渉材料にしても悪くは無いでしょう。

それでも、受取手形が残るときは、仕入債務(買掛金等)に手形を裏書きするか、安い金利で銀行割引してもらうことで「受取手形」という妖怪のようなものが「総資産」から無くなります。

受取手形は、やっかいなものですからそれで決済しないと仕方ないときの前提としては「与信管理」が必要です。「与信管理」とは、得意先の経営状況を判断して「正常先」なのかどうかを確かめます。そのときに必要なものとしては、得意先の決算書や税務申告書を入手したり、金融機関やリサーチ会社からの「与信情報」の提供を受けることです。前述したように、金融機関との良好な関係はそんな時に役立ちます。また、その評価により、「与信限度」と言って取引ができる上限を設けることが有効です。

次に、売掛金です。有効な手法として「年齢調べ」があります。取引先1件ごとの売掛台帳を作成して、それがいつ発生して、いつ回収されているかをチェックすることです。その回収までに長期間かかっていたり、回収期間に「ムラ」があるところは要注意です。その売上先との取引条件などを記した「契約書」を結んでいるかどうか、また新規の取引先の場合は「契約書」を作成し、それが正しく履行されているかどうかを常に確認しましょう。

有能な営業マンは、その取引先が信用できるかどうかの勘所を知っているようです。例えば、トイレがきちんと掃除されているかどうか、また、受付の人の対応や社内の空気などで分かるそうです。デジタル情報より「アナログ」情報の方が信じられる場合もあります。債権の回収では利益を生みません。場合によっては弁護士などに相談したり、いざとなったらその売掛金を債権回収機関に売買することも可能です。しかし何より大事なことは、不良債権を作らないようにきちっとした管理や情報の収集をすることです。

 

(6) 自己資本比率の改善の方策~総資産を減少させる(その3、在庫を極力少なくする)

意外に効果的に総資産を減少させる方法は在庫を減らすことです。中高年になると、加齢によりよほど意識していないとおなか周りが気になるものです。在庫もそれと同じく、よほど意識していないとついつい在庫過多になってしまします。

経営者や営業マンの潜在的な意識の中で醸成されるものが、「注文即納品」です。そうなると商品のラインナップを増やし、色やサイズもそろえなければなりません。すると、必然的に在庫過多になり、その取扱商品が流行ものであれば、売れ残りを生じさせることになり、バーゲンセールなどで見切り販売するか、食品等で消費期限や賞味期限などがあるものは商品を廃棄することになります。

そうしたことに陥らないようにするため、編み出されたものにトヨタの「カンバン方式」があります。日本の大規模製造業は、子会社、孫会社、ひ孫会社など「立て系列」の「重層型」になっています。「カンバン方式」は、従前の常識を根幹から変える画期的な発想、つまり在庫を持たない、つまり「明日生産する部品は看板に書き込み」それを見た納入業者はそれを見て、あらかじめ定められた部品と数量、納入時間を厳守しなければペナルティーが課せられるというものでした。究極の在庫ゼロ作戦です。

業種、業態により在庫を極限までにゼロに近づけると言った発想の転換が必要になります。そのための工夫や知恵を業界の先進的なところから学ぶとか、営業マン以外の社員からその発想を聞き出すことにより意外な知恵が出てくるものです。

また、消化仕入れ(売上げ仕入れ)のように販売所の一部を貸すといった発想や委託販売では在庫のリスクはなくなります。

それと、大事なことは商品の実地棚卸です。最近ではコンピュータのソフトによって在庫管理をしているところが増えてきていますが、少なくても決算のときは実地の棚卸をして、ソフトの理論値との差額を突き止めることです。そのことにより、在庫の横流しやソフトの不正入力などがないかが検証できます。したがって、実地の棚卸には、営業マンやPCのソフトへの入力をしていない社員に棚卸をしてもらうなどの工夫で内部牽制制度ができる副産物もできます。

 

(7) 自己資本比率の改善の方策~総資産を減少させる(その4、仮勘定をなくす)

B/Sの流動資産の中には、貸付金(誰かに将来の返済を条件にお金を貸したもの)や立替金(役員、従業員、取引先などが払うべきお金を会社が一時的に立て替えたもの)、仮払金(用途が不明な支出で、あとでその原因を究明して適切な勘定科目に振り替えるべきもの)という勘定科目があります。これを「仮勘定」と呼びますが、その金額が異常に大きな会社があります。ここにも、チェックの目を入れることが大事です。

「仮勘定」中には、社長や特定の者が不正流用しているケースや粉飾の手段として使われていることもあります。原因を早期に解明し、もし「不正」なものや「不正常」なものがある場合には、該当する者に「返済計画書」や「債権確認書」を取り交わし、きちんと返済させることが肝要です。また、その金額が大きく問題があると認められるものについては早く弁護士などに相談しましょう。

こうした「仮勘定」の大きな会社は、「金融機関」や「税務署」が不信と感じる一番大きなものです。ずるずると「仮勘定」に置いておくのではなく、むしろその芽を早く取り除く必要があります。そして、そうしたものが発生しないような経理規定を作るべきでしょう。

 

(8) 自己資本比率の改善の方策~総資産を減少させる(その5、固定資産を減らす)

総資産を減少させる最後の項目として固定資産の減少について考えてみましょう。固定資産とは、「会社の収益の源泉となることを前提として取得した投下資産で、長期間の使用ができるもので、その金額が大きいもの」を言います。機械、車両、建物などの償却できるもの(減価償却資産)と償却ができない土地が主なものです。かたちが見えるものなので「有形固定資産」と言います。また「営業権」「特許権等」「ソフトウェア」などのかたちが見えないものを「無形固定資産」と言います。その他「投資有価証券」「子会社株式」のような「投資その他の資産」からなります。

大事なことは、今の流行語でコスパ(コストパフォーマンスの略語で費用対効果を意味します)をどれだけ意識した投資が必要です。

個人的には、利益を直接生まない事務所は賃貸の方が良いと考えます。もし、土地を購入して、そこに自社物件を建てれば使い勝手は良くなるのでついつい購入する「土地神話」がありますが、これから先は、AI技術の発展に伴い10年先が読めない時代になります。どんな時代にも即応できるように、多少の不便さはあっても賃貸物件にすれば、償却のできない土地が総資産を増やすことはないと思います。

同じく、機械や車両もリースにすることも考えた方が良いのではないでしょうか。ただし、リース物件は会計基準の変更より資産計上となりましたが、メンテナンスなどのことを考えると購入をするかどうか、慎重に考えるべきでしょう。

3つの財務分析指標の計算式とその活用(その1)

財務分析は、企業経営者、財務管理者のみならず多くのステークホルダー(その企業の財政状態や収益力が直接・間接に関係する人々をいいます。具体的には、エンドユーザー、従業員、株主、金融機関、売上先、仕入先、外注先、税務署等の行政機関、地域社会などです)にとって、その会社の財務の状況を把握するのに有効です。

しかも、パソコンの普及と会計ソフトの熾烈な開発競争から、もの凄い量の財務分析データを見ることができます。しかし、簿記や会計の基礎知識がないとその指標が意味することを理解することは容易ではありません。いくら多くの分析データあっても「絵に描いた餅」と化してしまいます。つまり会計の専門家でない人に多くを求めるのは酷な話となります。

しかし、今回説明する3つの指標だけをそれなりに理解して、定点観測を続けることができれば経営のあるべき姿(経営戦略)を見いだすために有効だと考えます。

この3つはあくまで私が大事だと思うものですので、「教科書的」には違うかもしれませんが重要なのは、肝心なのは①その分析指標を自分で計算し、②その改善策を練って、③その改善策を実行してみて、④その成果を評価して、⑤次へのステップアップにつなげていくプロセスだろうと思うのです。世に言われる「P→D→C→A」サイクルそのものです。

私が大事だと思う3つの指標は「損益分岐点売上高」「自己資本比率」「総資本対経常利益率」です。

 

損益分岐点売上高

最近の経営指標として「損益分岐点売上高」の応用(損益分岐点売上高の逆数)として「経営安全率」が使われることが多くなってきました。

しかし、その基礎になっている損益分岐点売上高の計算式がまずわからないと、今後の事業計画が机上の空論となります。中小企業に携わる人がまずもって考えることは売上高です。なぜならば、売上高がその会社の器(規模)と考えられるからです。私見ですが、まずは、売上高を年間1億円にすることを目標としましょう。この1億円のラインが「零細企業(個人型事業)」から「小企業(組織型経営)」の脱皮点になると考えています。1億円になれば、社長自身が社長業を自ずとやる必要が出てきます。言い換えれば、組織経営(管理者を配置し、その管理者と責任分担をしていくこと)をして、売上高の増加とともに、現場に入る割合より管理業務のウェイトが高くなって行くと考えられます。

次にめざすべき売上高は10億円です。この域に入るのには相当の苦労が伴います。10億円の壁をなかなか超えられない企業が多いのが私の経験則上あります。売上高10億円を「中企業(もちろん業種や業態によって一概には言えないところもありますが)」と言っても良いと思います。

日本の企業の中で中小企業の占める割合は99.7%です。その中で、売上高が10億円を超える会社は僅か6%強です。労務集約型のサービス業でおよそ100人、製造業ではおよそ50人程度、粗利が少ない卸売業でも20人程度の規模になります。こうした人数を安定的に束ねていくには相当の苦労が入ります。

この程度の売上になると、金融機関の見方も変わってきます。日本政策金融公庫も、国民生活事業(旧国民生活金融公庫)から中小企業事業(旧中小企業金融公庫)に変わる頃だろうと思います。もちろん売上至上主義ではいけませんが、上述したようにステークホルダーの目が変わるのがこの10億円の壁です。

前置きが長くなりましたが、まずは損益分岐点売上高について解説します。

 

(1) 損益分岐点売上高の求め方

(2) 目標売上高の求め方

(3) 損益分岐点売上高とはそもそも何か

損益分岐点は、「売上高」から仕入、外注費・一般管理費・支払利息などを含むすべての「費用」を引いたときに利益がゼロと計算される「売上高」のことを言います。

つまり「損益分岐点」がピッタリの売上高をあげた場合、その企業は「利益も出せていないけれども、赤字も出していない状態」となります。換言すると「最低でも損益分岐点に到達するだけの売上高を獲得していれば、なんとか現状維持をすることができる」と表現することもできます。

英語では「Break Even Point」と言います。損益分岐点売上高では、いささか長いので略して「BEP」と表記することもあります。

 

(4) 限界利益率の求め方

限界利益とは、売上高から変動費(売上が多くなればそれに比例して多くなり、反対に売上が少なくなればそれに比例して少なくなるものを言います。例えば、仕入や外注費、販売手数料などそれに当たります。業種や業態によって違うこともあります)を引いたものを言います。

この考え方は、税金の計算などで使う「制度会計」(過去会計とも言われます)ではなく、「管理会計」(未来会計とも言われます。それでも分かりにくければ経営者会計と呼んでも良いでしょう。)という考え方だからです。厳密さを求められる「制度会計」と違って「管理会計」は、その仕組みを理解し、問題点を把握し、実際の経営に役立てるために使うので余り緻密に計算する必要はありません。

例えば、人件費の内の残業代は変動費になるのではないかと言うことは理論的には正しいかもしれませんが、そんなことをやらなくても「ざっくり」人件費として考えるべきです。肝心なことは、いかに「ざくっと」会社の損益構造を経営者として考えることです。だだし、試運転の時はあれこれ迷うかもしれませんが、なれてきたら「こうだと決めて」継続的にやってみることが肝心です。

 

(5) 固定費とは何か

固定費とは、生産量や販売量の増減に関わらず固定的にかかる経費のことを言います。

具体的には一番比率の高い人件費や減価償却費などが固定費にあたります。また、事務所の賃借料や水道光熱費、コンピュータやソフトなどのリース料、広告宣伝費などといったもろもろの経費も固定費と区分します。

ポイントは、人件費には、社員の給与(皆勤手当や残業代なども含みます)や賞与だけではなく社会保険や労働保険の負担金、福利厚生費や通勤交通費、退職金なども含むことです。

 

(6) 目標利益の考え方

目標利益は、最低限、借入金の1年間の元本返済額とします。そうしないと、借入金の返済のために再度借入をする(自転車操業という言葉で表現されることもあります)つまり、この状態に陥ると、金融機関との信頼関係は相対的に落ちていきます。すると金融機関は返済ができなくなるという一定のリスクに備えて、相対的に金利が高く設定するという悪循環に陥る可能性も考えられます。

さらに、今後の設備計画、人材採用計画、売上規模の拡大などに必要な利益を目標利益加えます。その際、考慮すべきことは、いかに限界利益率を高めていくか、つまり付加価値の高いサービスや商品仕入、製品製造、建設工事などを行うことです。

また、(5)の固定費をいかに少なくするかを検討することも必要です。固定費削減の「3K」ということ言葉も使うこともあります。ここで言う3Kとは、「広告宣伝費」「交際費」「交通費」ですが、その「コツ」は「ムダ」を省くために「費用対効果」を考慮することです。別な表現で言えば、「ムリ」「ムラ」「ムラ」の「3ム」を意識することです。

 

(7) 具体的な算定方法の例

まずはオーソドックスに損益分岐点売上を算出してみましょう。

算式は上記のようにでした。

 

具体的に数字をあてはめてみましょう。

仮に①固定費…3,000万円、②限界利益率…30%とします。

となります。

つまり、1億円の売上高を確保して損益とんとん、黒字も赤字も出ない数字になります。

 

次のステップとしてその応用型で③目標利益…300万円にしたい場合には、

が必要になります。

さらにそれを月次に落としていきます。つまり、必要売上高を毎月に落とし込む作業が必要になります。

どの企業とも、変動要因があります。季節変動(多く売れる月と売れない月をその割合に応じて変動させる)や趨勢変動(扱い商品が伸びているものなのか、衰退気味のものなのかを考慮します)などの要素を活用して、年間目標売上高を毎月の売上高に落とし込んでいきます。

それができて、初めて月次決算の第一歩です。それをいかに早く算出して目標売上高に達していなかったら、どうしてという原因を追及します。そして、その原因を販売戦略に活かしていきます。ある経営者団体で報告をされた経営者曰く「月次決算をきっちりすれば赤字が出るわけない。」と、私もまったく同感です。

その場合、考慮すべきは、例えば①固定費を削減する、②限界利益を上げていく、言い方を変えれば付加価値の高いものにブラッシュアップ(精度を高くすること)するなどを考えることです。戦略無きところには、利益は出ないことを肝に命じてください。因みに、件密にすれば税金のことも考慮すべきですが、まずは基本から習得しましょう。

決して難しいことではありません。まずは、直近の決算書を良く眺めてみましょう。分からなかったら、分かる人に聞きましょう。決して恥ずかしいことではありません。分からないまま放置する方が恥ずかしいことなのです。

99.7%の声を聞け

年の瀬には恒例行事となっている今年あった○○のランキングが話題となります。税理士業会をめぐるランキングのダントツ第一位はなんといっても消費税率の10%への引き上げでしょう。

納税通信(エヌピー通信社発行)10月28日号に「中小企業イジメの消費増税、日本を支える99.7%の声を聞け」というセンセーショナルな記事が掲載されていました。また、中見出しは「今こそ5%への減税を」後見出しには「税制は経団連だけのモノじゃない!」とまるで私の声を代弁してくれているような特集を組んでいました。

記事の内容を要約すると①今回の消費増税によってGDPの牽引力になっている個人消費がさらに冷え込むことは避けられない、②休廃業・解散する企業が増え続けているが消費増税との関連性は否定できない、③先進国のGDPは過去20年で約2倍になっているが日本は1.02というひときわ目立つ低調ぶりで、OECD36カ国中最下位になっていることも消費税の影響といわざるを得ない、④消費税の税制の仕組みから税率の引き上げのしわ寄せは常に弱い立場の下請けなどにきていたが、10%の大台に乗った今後はさらに買いたたきや価格転嫁拒否などの不当な取引が増加するとみられることを指摘しています。

さらに紙面は、「軽減税率、ポイント還元、プレミアム付き商品券などの政策」にも批判的に論評しています。

その一方で、優遇されてきたのは大企業と超富裕層への施策で、①31年間で集めた消費税収は397兆円に上るが、法人3税の税収は275兆円減ってきたこと、②租税措置法や「輸出戻し税」で増税するほど得する仕組みとなっていること、③所得税は、証券優遇税制により所得が1億円を超えると負担が減っていく仕組みで、保有時価総額が1000億円以上の超大株主は2012年の末には12人だったのが、18年には58人に増え保有総額は3.5兆円から17.6兆円と急増したことが記載されています。

こうした状況から、国民や中小企業からは「少なくとも8%へ引き上がる前の5%に戻し、国内消費を喚起すべき」という声が上がり、デフレ脱却のためにも今こそ減税という提案には説得力があり、99%以上を占める中小企業が元気にならなければ日本経済の復興はあり得ないとされ、最後にいま、勇気をもってそれに踏み切るのはあながち無謀な選択ともいえないのではないかと締めくくっています。

過日、私は中小企業家同友会という全国で5万人の会員を目指してがんばっているまじめな中小企業の経営者団体の、とある支部で消費税を中心にした報告をする機会がありました。そのときには上述した記事はなかったのですが、話のあらすじはほぼ同じ内容でした。

そこで私は、中小企業の経営者がこのような事実をあまりにもご存じなかったことに驚きました。

さらに驚いたことはインボイス制度に対する理解がまるでなく、経営に与える大きさに議論白熱しました。

おそらく、スポンサー企業から莫大な広告収入を得ているマスメディアがそうした「不都合な事実」を伝えることをサボタージュしていることが最大の要因なのだと思います。

すでに政党では、日本共産党やれいわ新撰組、社民党が5%への減税をすることで合意をし、他の野党もその方向で協議しています。しかし私たちは、政治家だけに頼ってばかりではいけません。ありとあらゆる機会に、政府にとっての「不都合な真実」を伝える責務があります。

そのためには、このブログをご覧になった方が一番身近な家族、同業者、関与先、ご近所などと消費税について対話し、5%への減税の世論をもり立てることが必要のではないでしょうか。